工学研究科の大学院生が日本原子力学会シンポジウムのパネルディスカッションに登壇しました

大学院工学研究科応用理化学専攻1年次生の地井桐理子さんが、8月12日に東京大学本郷キャンパスで開催された日本原子力学会シンポジウムのパネルディスカッションに登壇しました。シンポジウムは、東京電力福島第一原子力発電所(1F)の廃炉により発生する放射性廃棄物の取り扱いやエンドステート(廃炉後の最終的な状態)について、将来を担う学生を交えて討論し、その内容を広く共有することを目的としたものです。当日は、「現状の放射性廃棄物の管理・処分概念と1Fの廃棄物の課題」と題した講演に続いてシンポジウムが実施され、原子力やエネルギー環境などを学ぶ地井さんら学生と報道関係者が登壇しました。

工学部在籍時から若杉圭一郎教授(応用化学科)の研究室で高レベル放射性廃棄物処分の社会受容性について研究を続けている地井さんは、「1Fの廃炉で発生した廃棄物管理の望ましい形は?」「廃炉後にどんな未来があったらいいと思いますか?」といった問いに対し、自身の研究や経験をもとに意見を述べました。福島第一原発の事故に伴う除染で発生した除去土壌について、「除去土壌は1Fに隣接する中間貯蔵施設に一時保管されており、政府は保管を始めた2015年から30年後の2045年には福島県外の最終処分場に搬出するとしている。昨年、環境省が主催する除去土壌再生利用に関する理解醸成ワークショップに参加し、除去土壌の入ったフレコンバックが積み上がっている様子や、除去土壌を利用して米や花を育てている調査研究について知った。これら廃棄物管理への取り組みは社会的な認知が低く、福島県の人たちだけの問題になっている」と指摘しました。また、「専門家の言葉と一般の人が受け取る印象のギャップをどのように埋めていくか、理屈は理解できても心情的に許せないという人や東日本大震災後に生まれた世代へのアプローチ方法も考えなければならない。現地ではあらゆる分野の専門家が集まり、最先端の研究が進められている。正しい知識を広め、自分事として考えてもらえるように研究や情報発信に取り組んでいきたい」とまとめました。

指導に当たる若杉教授は、「30年後に除去土壌を福島県外へ最終処分するというニュースは過去に報道されているものの、多くの若者が知らないのではないか。今後は、原子力の専門家だけでなく、幅広い分野の専門家や多様な世代の人々がこの問題を認知し、解決策を導くプロセスに参加していくことが必要。地井さんが、今回のシンポジウムを通じて自身の意見や経験、情報を発信することで、誰か一人でも気づきを得てくれれば解決に向けた大きな一歩になるはず」と期待を寄せています。