工学研究科応用理化学専攻の学生が執筆した論文が国際ジャーナル『Carbohydrate Research』に掲載されました

大学院工学研究科応用理化学専攻2年次生の浅見悠里さん(指導教員=生命化学科・蟹江治教授)と山口亮介さん(指導教員=同・清水佳隆准教授)が執筆した論文がそれぞれ、国際ジャーナル『Carbohydrate Research』に掲載されました。同誌は1965年に創刊され、生物化学から遺伝化学、構造化学など複合糖鎖に関する基礎研究成果を主に掲載する学術雑誌です。山口さんの論文は、昨年12月24日に同誌のオンライン版に掲載(印刷版では、473号に掲載)。浅見さんの論文は、1月30日に同じくオンライン版に掲載(印刷版では、474号に掲載)されました。国際的な学術誌に修士課程の学生が執筆した論文が掲載されること自体極めてまれなケースとなります。

生命化学科では、学科内の教員による共同研究を積極的に進めており、糖化学が専門の蟹江教授と、リポソーム工学を専門とする清水准教授の研究室も以前から連携し、先進生命科学研究所の研究員らとも協力しながら研究を進めてきました。今回の2つの論文はそのようなシナジーによる成果とも言えます。

浅見さんは、オリゴ糖鎖を人工的に合成する糖鎖科学の分野で、より効率の良い合成方法の開発につながる研究成果を発表しました。現在一般的に用いられている合成法では、異性体を生じてしまうため合成時のロスが大きいという課題がありましたが、浅見さんはガラクトースを使った研究で新手法の開発に挑戦。反応時にカギとなる部分を解明し、ガラクトースの立体構造を保ったままで合成し、狙ったオリゴ糖のみを作る手法の基礎を確立しました。また反応の過程でこれまで知られていなかった「中間体」を経ていることも明らかにしました。

一方の山口さんは、ホタテ養殖で害をなす生物として知られているキヒトデを材料として研究。その体内に多く含まれている23種類の糖脂質の構造を明らかにした成果を発表しました。キヒトデは、厄介者として扱われている一方、糖脂質の一つグルコシルセラミドは高い保湿性を持つことから、医療や化粧品への応用が期待されています。今回の研究ですべての糖脂質が明らかになったことで、今後有効成分をより明確にするための一歩が開かれたことになります。

浅見さんは、「研究では実験室で糖鎖を合成し、出来上がったものの分析を続けてきました。研究では一つの実験を行えば、何らかの結果が出ます。私たちはそれを考察して次のステップに進むのですが、その過程は座学では味わえない面白さがありますし、研究を続ける原動力になっていると感じています。今回の研究ではガラクトースで実験をしていますが、今後はほかの糖鎖での合成も行ってみたいと考えています。また、中間体を含む反応機構もさらに明確にしたい」と話しています。山口さんは、「生命化学科では、希望者は3年次生の後期から卒業研究に携われます。私の研究では、複合脂質を糖部分や脂質部分に分離した後、清水先生や蟹江先生と共に、技術共同管理室にあるさまざまな装置を用いて糖を分析し、同定する作業を進めてきました。その過程で、先生方や技術者の方から多くのアドバイスが得られたことが、とても重要だったと感じています。今後は研究をもう一歩進め、糖脂質それぞれの代謝や修飾の過程を明らかにしていきたい」と語っています。

【掲載論文タイトル】
浅見さん
「Stereoselective trimethylsilylation of α- and β-galactopyranoses」
https://doi.org/10.1016/j.carres.2019.01.013

山口さん
「A unique structural distribution pattern discovered for the cerebrosides from starfish Asterias amurensis」
https://doi.org/10.1016/j.carres.2018.12.013

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