機械工学科・落合教授らの研究グループが、エンジン内部の潤滑油の挙動を可視化し、シミュレーションすることに世界で初めて成功しました

工学部機械工学科の落合成行教授らの研究グループがこのほど、乗用車用エンジンの駆動中に、ピストン内部で生じる潤滑油の挙動を可視化するとともに、その動きをシミュレーションすることに世界で初めて成功しました。この研究は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の一つで、エンジンの高効率化を目指す「革新的燃焼技術」に参画している「機械摩擦損失低減グループ」(リーダー:三原雄司 東京都市大学教授)による研究として取り組んだものです(実施期間:2014年10月~19年3月)。

本学の研究グループには落合教授のほか、畔津昭彦教授(工学部機械工学科)、山本憲司教授(同建築学科)、髙橋俊准教授(同動力機械工学科)が参画しています。自動車用エンジン内部ではピストン運動によって生じる部品間の摩擦を低減するため、ピストンに金属製の輪(ピストンリング)を設け、そこに潤滑油を供給する手法が用いられていますが、これまでは駆動中の内部の詳しい挙動は想像するしかない状態でした。潤滑油がエンジンの燃焼室に入るとエンジンオイルが消費され、さらに悪性の排気ガスを外部に排出する危険性がありますが、その原因はよくわかっていませんでした。

研究グループでは、これらの解明に向けて落合教授の専門であるトライボロジー(摩擦学)をはじめ、畔津教授が開発したフォトクロミズム(油の流れを可視化する技術)の手法、山本教授の構造解析技術、高橋准教授の混相流解析技術(気体と液体が混ざった物質の流れをシミュレーションする技術)を融合。エンジンのシリンダーとその内部にあるピストンの間で生じる摩擦の解析を研究してきました。山本教授によって、シリンダー内部のねじ締めや熱の影響で生じる微妙な歪みの影響により、ピストンの高速駆動時にはピストンリングのジャンプ現象が生じ大きなすき間ができることが計算により判明。畔津教授が開発した手法によって、エンジン内部で潤滑油の膜厚が変化する様子や潤滑油が移動する過程を可視化することに世界で初めて成功しました。また高橋准教授は、畔津教授の手法で明らかになったオイルの流れをシミュレーションすることに成功しました。

この研究成果を含む、「機械摩擦低減グループ」の成果はSIPによる最終審査で高い評価を取得。4月からは、国内の自動車メーカーなどが結成している内燃機関研究の支援団体「自動車技術研究組合(AICE)」の委託研究として継続することが決まっています。

落合教授は、「本プロジェクトの成果によって、エンジン開発におけるコスト低減とスピード化に向けた一歩が歩み出せたと感じています。また、今回の成果は、エンジンだけでなく、油や摩擦現象のかかわる他分野にも応用できる可能性があるため、今後もしっかりと成果を積み重ねていきたい」と語っています。

また、長く自動車産業界との共同研究に携わってきた畔津教授は、「エンジン効率の改善には摩擦の低減が大切で、特にピストンリングの摩擦が全体の効率に占める割合が高いといわれてきました。その解決策として、潤滑油の粘度やピストンリングの張力を工夫し、摩擦を低減する手法が採用されてきましたが、思うように解決できていないのが現状です。今回の研究によって、一般車が街中で走る程度の回転数時については解明することが可能になりました。今後は、より高速回転時の挙動を可視化する手法を開発するとともに、トランスミッションなど他の部品内でのオイルの挙動も解析していきたい」と語っています。

落合教授研究グループ_525.jpg