大学院工学研究科を2019年3月に修了した山室大樹さんと工学部材料科学科の高尻雅之教授が執筆した論文が6月9日に、学術雑誌『Coatings』(Impact Factor=2.3)の「Best Paper Award 2019」に選ばれました。この賞は、18年に同誌に掲載された論文約500本の中から、特に優れた論文と寄稿5本に送られるものです。山室さんと高尻教授は、2018年1月3日号に掲載された論文「Combination of Electrodeposition and Transfer Processes for Flexible Thin-Film Thermoelectric Generators」で受賞しました。
高尻教授の研究室では、微弱な温度差を電気に変換できる熱電素子の開発を進めており、発電効率の高い素子や環境負荷の低い素材を使った素子の開発、安価な製造方法など多角的に取り組んでいます。受賞論文では、高効率で折り曲げても使えるフレキシブル薄膜熱電素子の製造法を提案しました。広く用いられている熱電素子の一つ「ビスマステルル系薄膜」を作る手法としては、金属基板の上に素子材料を薄く作製する「めっき法」が主流ですが、金属基板にも電流が流れてしまい充分な性能を発揮できないといった問題がありました。山室さんらは、その問題を解決する手法として金属基板上にめっき薄膜を作った後、その薄膜を絶縁性テープやエポキシ樹脂などに転写することで、丸めたり、折り曲げたりして使うことができ、かつ発電性能を充分に発揮できる薄膜熱電素子の開発に成功しました。
高尻教授は、「この手法の開発は、私が東海大学に着任した直後から4年間かけて学生たちと取り組んできたテーマだったので、受賞をうれしく思います。学会で高い評価を得られたのも、山室さんをはじめ、この研究にかかわったすべての学生たちの努力があったからこそ。熱電素子は災害発生時に各地の状況を調べるセンサをはじめ、山火事の検知や生体モニタリング、生体センサなどさまざまなセンサの電源への応用が期待されています。実社会への応用を見据え、研究者の間でもフレキシブル性を高めたり、発電効率の向上を目指したりする研究は高い注目を集めています。私たちの研究室でも性能の向上はもちろん、より環境負荷の少ない素子の開発を進め、熱電素子の社会実装に貢献していきます」と話しています。