大学院工学研究科修士2年次生の学生が執筆した論文がオンラインジャーナル誌『Scientific Reports』に掲載されました

大学院工学研究科応用理化学専攻2年次生の安間有輝さんと三浦克真さん(指導教員=工学部応用化学科・高尻雅之教授)が執筆した論文「Ultra-long air-stability of n-type carbon nanotube films with low thermal conductivity and all-carbon thermoelectric generators」が、12月14日に国際科学ジャーナル『Scientific Reports』に掲載されました。

論文では、筒状炭素分子「カーボンナノチューブ」に、洗剤や化粧品などに含まれる陽性界面活性剤を添加して薄膜を作製することで、従来のものと比較して約10分の1まで熱伝導率を低減するとともに、2年以上大気中で超長期間安定してN型半導体特性を示すカーボンナノチューブ複合膜の開発について報告しました。カーボンナノチューブは、空気中に含まれる酸素分子の影響でP型になりやすい性質上、安定したN型を作製することは困難とされてきましたが、陽性界面活性剤でカーボンナノチューブの表面をコーティングして酸素分子の吸着を防ぐことによって、2年以上大気中で超長期間安定性を実現しました。また、これを基に熱エネルギーを電気エネルギーに変換する「オールカーボンナノチューブ熱電発電デバイス」も試作し、長期間(160日間)の性能劣化のない発電に成功しました。今回の開発によって、熱電発電をはじめとしたN型とP型カーボンナノチューブを使用した半導体デバイスの長寿命化・普及に大きく貢献できることが期待されています。

今年の4月から家電メーカーに就職する予定の安間さんは、「研究を論文にまとめて世界に発表できたことは、春から働く上でも大きな自信につながりました。N型特性を2年以上安定化させる技術は、世界最長の成果なので研究や技術のさらなる発展につながってくれたらうれしいです。社会に出たら大学での研究で培った知識を生かして、社会を支える製品開発に尽力していきたい」と意欲を見せ、三浦さんは、「カーボン材料研究の発展に貢献できたことをうれしく思います。コロナ禍でのブランクを埋めるために研究論文を読み漁って知識をつけるなど、その時々でできることに一生懸命取り組んできました。振り返ると大変なこともありましたが、まだ事例がない新たなことに挑戦する面白さを学びました。4月からはカーボン材料を取り扱うメーカーへの就職を予定しているので、これまで学んできた知識や経験を生かして社会の役に立つ仕事をしたい」と語っていました。

学生と一緒に研究してきた高尻教授は、「この研究は2018年より開始したものですが、新型コロナ禍でキャンパスへの入構が制限され、計測が途中で止まる事態にもなりましたが、2人は入構制限解除後すぐにデータ収集にとりかかってくれました。その姿勢が論文掲載という研究の最終段階までの成果につながったのではないかと思います。IoT社会実現には、大量のセンサーが必要となるので、有害性が低く半永久的に使えるカーボンナノチューブは、重要な役割を果たすと考えられます。2人は、3月で卒業となりますが研究室のメンバーが引き継いで、今後はN型が長期間持つメカニズムの解明に向けて、さらに研究を進めていきます」と話しています。

【論文URL】https://www.nature.com/articles/s41598-022-26108-y