情報理工学部情報メディア学科の小坂崇之准教授と安本匡佑准教授がこのほど、2022アジアデジタルアート大賞で入賞しました。同大賞は、九州大学を中心にクリエイターの発掘・育成の場として、2001年にスタートしたメディアアートコンペティションで、「論理的思考を基盤にした高い芸術的感性」がテーマ。小坂准教授は、一般カテゴリー「エンターテインメント(産業応用)部門」の大賞を受賞し、安本准教授は「AIアートアワード」の「AIAA賞」選出されました。受賞作品は、3月8日から12日まで、福岡市美術館で開催された受賞作品展で展示されました。
小坂准教授の作品は、「新生児体験システムCryingBaby」です。実際の新生児を模したタイミングで「だっこ」や「ミルク」「おむつ交換」などを求めてランダムに泣き出すロボットで、口からミクルを吸引し、体内で着色され排泄されおむつ交換もできるようになっており、より実践的な新生児育児体験ができるものです。小坂准教授は、「母親には産後直後のさまざまなストレスがかかり、育児ノイローゼや産後うつを発症する事例も報告されています。出産を経験していれば、これから起こり得る問題は分かっており対策も可能ですが、初産婦は困難も多い。この新生児ロボットによって、新生児への接し方や育児に対する不安を軽減してもらいたいと約2年前から開発を続けてきました。私自身も父親として第1子誕生の際に戸惑うことも多く、その経験も生かしています。また、新生児の育児の大変さについて、男性だけでなく多くの人が理解していないのではないのではないかとも考えています。約3時間ごとの授乳やミルク、おむつ交換、沐浴や寝かしつけなど育児に加え、新生児は昼夜を問わず激しく泣き叫び、睡眠時間を確保するのも困難。CryingBabyは一度電源を入れると24時間稼働する仕組みで、スイッチを切ることはできません。育児方法や育児の大変さを知ってもらうことはもちろん、助け合いの大切さにも気づいてもらえれば」と語ります。
「アジアデジタルアート大賞では、2017年度に同じくエンターテインメント(産業応用)部門で大賞と経済産業大臣賞をいただいて以来の受賞となりました。展示会でも多くの方に来場いただき、関心の高まりを感じています。今後もこのような機会を生かして研究成果を発信していきたいと考えています」と話しています。
安本准教授が受賞した作品は、画像生成AI「Stable Diffusion」を使って作成した「Resonant Shifts #2 Sunrise」です。同ソフトは、入力されたテキストをもとに画像を生成するAIで、ユーザーは制作したい画像のイメージを英単語で区切って入力すると、簡単にさまざまな画像を作成できます。すでにオープンソース化されており、使用する際にアルゴリズムを理解したり、プログラムコードを記述したりせずに、テキスト入力の操作だけで自身にイメージに近い画像を作成できるほか、すでにある画像にテキストを加えることで新たな画像も生成できます。安本准教授は、このソフトを使ってクロード・モネの作品「印象派・日の出」の作品制作をプロンプトとして入力し、できた画像に再度同じプロンプトを入力するプロセスを何千回も繰り返すことで作品を制作。画像生成の際には、毎回シード値がランダムに変更され、それを繰り返すことで異なる誤差が蓄積していくため、最終的に生成される画像は毎回違ったものになることから、今回のコンペティションには同じ手法で制作した6枚の画像を組み作品として出展しました。
安本准教授は、「画像生成AIをはじめ、AIは日々凄まじいスピードで進化しており、メディアアートの研究者としてとても魅力的な分野の一つです。今回のようにプロンプトを繰り返し入力しながら画像作成するだけでなく、オペラ作品や小説を一文一文重ねながら、どのような作品が出来上がるのかを試行しています。今後も作品づくりに注力するとともに、日々発展を続けるAI研究に寄与していきたい」と話しています。