熊本大学の研究グループと金沢大学、本学医学科の深川教授らが糖尿病性腎臓病の新たな早期診断マーカーを発見しました

熊本大学大学院生命科学研究部の渡邊博志准教授、今福匡司博士(現:和歌山県立医科大学助教)、丸山徹教授らの研究グループと金沢大学、本学医学部医学科の深川雅史教授(内科学系腎・代謝内科学)らがこのほど、糖尿病性腎臓病の新たな早期診断マーカーを発見。「システイン付加アルブミン(酸化型アルブミン)は2型糖尿病患者における腎症進展の診断マーカーとなる」と題した論文が、4月26日(日本時間4月27日)に、アメリカの糖尿病学会誌『Diabetes Care』に掲載されました。

糖尿病性腎臓病は、網膜症、神経障害と並ぶ糖尿病の三大合併症の1つです。腎臓は血液をろ過して尿を生成することで老廃物を排出し、体液量やイオンバランス、血圧などを一定に保つ働きをしていますが、糖尿病性腎臓病が進行するとそうした機能が損なわれ、最終的に透析治療が必要になります。予後の改善は難しいため予防が第一ですが、発症した場合にはできる限り早期に診断し、適切な治療を行うことが重要です。これまでは、尿中のタンパク質である微量なアルブミンの量を測定して診断していましたが、早期には異常が認められない症例もあるため、複雑多様な腎病態に対応できる新たな診断マーカーの開発が求められていました。

研究グループでは257例の2型糖尿病患者について、腎臓の病態進行と血清アルブミンの翻訳後修飾体(糖が付加したり酸化したりしたアルブミン)との関連を評価しました。その結果、糖尿病性腎臓病の進行に伴い、血清中に存在するアルブミンの酸化修飾体であるシステイン付加アルブミン(酸化型アルブミン)の値が上昇することを発見。酸化型アルブミンが腎臓病の診断マーカーとして活用でき、従来から用いられている尿中アルブミンよりも早期に腎病態を反映できるという2つの可能性を見出しました。さらに、酸化型アルブミンが腎病態の進行を予測する診断マーカーとして利用可能であることも示されました。

深川教授は、「熊本大学薬学部とはこれまでも、主に腎不全における酸化型アルブミンに関する基礎並びに臨床研究を一緒に行ってきました。本学腎・代謝内科学の糖尿病研究ユニットでは、歴代の研究者が糖尿病における腎障害をメーンテーマとして研究に取り組んできた経緯もあり、今回の共同研究に参加させてもらいました。最近は、糖尿病による腎障害の病態が多様であることがわかり、名称も糖尿病性腎症から糖尿病性腎臓病へと変わりました。こうした中、どのような病態であってもより早期に診断できる可能性をもったマーカーを発見できたことは、大きな意義があると考えています」と話していました。

※『Diabetes Care』に掲載された論文は下記URLからご覧いただけます。
https://care.diabetesjournals.org/lookup/doi/10.2337/dc20 -3003

【研究グループ】
◇熊本大学大学院生命科学研究部
渡邊博志准教授、今福匡司博士(現:和歌山県立医科大学助教)、丸山徹教授
【共同研究者】
◇熊本大学大学院生命科学研究部
鬼木健太郎准教授、猿渡淳二教授
◇医療法人社団陣内会・陣内病院
 陣内秀昭院長(熊本大学薬学部臨床教授)、吉田陽博士
◇医療法人社団松下会・あけぼのクリニック
松下和孝理事長、田中元子副院長(熊本大学薬学部臨床教授)
◇金沢大学
和田隆志理事・副学長(腎臓内科学)、
◇東海大学医学部医学科内科学系腎・代謝内科学
深川雅史教授