医学部医学科の三上幹男教授(専門診療学系産婦人科学)らの研究グループが開発した卵巣がん早期発見システム「網羅的血清糖ペプチドスペクトラ解析(CSGSA:シースジーサ)」を用いた臨床試験が始まっています。この研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「令和4年度 次世代がん医療加速化研究事業 研究領域D(診断/バイオマーカー)」の採択を受けた研究「卵巣癌早期発見のための AI 血液診断モデルの開発―癌関連糖蛋白と網羅的血清 糖ペプチドピークデータを用いて―」として実施しているものです。
卵巣がんは発見時に進行している場合が多く、女性が生涯に卵巣がんで亡くなる確率は173人に1人と報告されています。がんによる死亡者を減らすためには早期発見が不可欠といわれていますが、現在、卵巣がんで用いられている腫瘍マーカー「CA125」では正確な診断が難しいため、より精度の高い診断法の開発が待ち望まれています。CSGSAは、血液中の糖タンパク質を糖ペプチドに分解・濃縮し、液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)に投入して二次元に展開して得た1人当たり約1万の糖ペプチドデータのすべてを用いて、がんに罹患している方と罹患していない方を比較して判別するシステムです。三上教授らは2020年8月に本システムに関する論文を医学雑誌『cancers』に発表し、臨床での活用に向けて卵巣がんの発見精度を高めるための研究を続けてきました。
本研究では2つのアプローチにより、卵巣がん罹患を判別するAIシステム診断精度の向上を目指します。1つは、約1万の糖ペプチドデータを人工知能(AI)に機械学習させる方法です。もう1つは、約1万の糖ペプチドデータの中で有用性の高い糖ペプチドデータと既存の腫瘍マーカーデータを用いて作成した一人ひとりのカラー2次元バーコードをAIに深層学習させる方法です。三上教授は、「AIに過去問題をたくさん勉強させて、本番の入学試験で高い正答率を得られるAIを作るイメージです。卵巣がんの陽性者と陰性者の情報を数多く集めてAIに学ばせ、診断の精度を高めます(早期卵巣がん検知AI)。陽性判定が出た方の10人に1人でも初期の段階で特定できれば、多くの命を助けられるはずです」と力説します。
「現在、7つの医療機関の協力を得て、研究の主旨に賛同してくださった人間ドッグ受診者の方、卵巣がんに罹患している方から、血液を提供していただいています。また、この診断法は、卵巣明細胞腺がんの発症に関係すると報告されているチョコレート嚢胞(卵巣子宮内膜症性嚢胞)の診断にも応用できると考え、検討を進めています。さらに、既往歴・家族歴や本人の自覚症状の推移などの情報もAIに読み込ませて、診断の精度を向上させる計画です。本研究には女性の協力が不可欠のため、研究の目的や概要をわかりやすく解説した動画をインターネットで公開する取り組みも進めています。1滴の血液から卵巣がんを早期に的確に診断できるシステムの一日も早い社会実装を目指して、さらに努力を続けます」と語っています。