医学部医学科外科学系整形外科学では12月10日に、公開シンポジウム「知ろう×語ろう 軟骨再生医療のこれから―細胞シートを用いた変形性膝関節症の治療研究の最前線―」をオンラインで開催しました。このシンポジウムは、佐藤正人教授が中心となって、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受けて進めてきた「細胞シートを用いた変形性膝関節症の再生医療」の概要を一般の方々にわかりやすく伝えるとともに、さまざまな意見をいただくことで研究のさらなる発展につなげるため、株式会社セルシードと共同で実施したものです。膝痛に悩む患者さんやその家族をはじめ、大学や企業の研究者、医療関係者ら321名が視聴しました。
初めに、大学院医学研究科の小林広幸研究科長が、「これまでの研究をさらに実りある成果へと展開できるよう、ご指導・評価をお願いします」とあいさつ。続いて、AMED再生・細胞医療・遺伝子治療事業部再生医療研究開発課課長代理の吉田貴明氏が「再生医療等の研究開発におけるAMEDの役割について」をテーマに講演し、同団体の概要や「再生・細胞医療・遺伝子治療プロジェクト」の内容、再生医療の特徴などについて説明しました。
「軟骨細胞シートの可能性」と題したシンポジウムには、佐藤教授とセルシード代表取締役社長の橋本せつ子氏が登壇しました。佐藤教授は、「細胞シートを用いた変形性膝関節症の治療研究の最前線」をテーマに、厚生労働省から「先進医療B」の承認を受け、本学医学部付属病院で世界に先駆けて実施している自己細胞シート(患者自身の軟骨細胞を培養して作製したシート)による再生医療の概要と治療実績を紹介。さらに、臨床研究として10名の患者さんを対象に実施した、同種細胞シート(乳児の多指症手術時の廃棄組織から採取した細胞を培養して作製したシート)を使用した場合のメリットや研究の進展状況について解説しました。続いて、細胞シートの製造を担う橋本氏が、「同種軟骨細胞シートの承認を目指して」と題して講演。大学における基礎研究・臨床研究から企業における治験、厚労省による「再生医療等製品」の承認を経て、患者さんに細胞シートが届けられるまでのロードマップなどを紹介し、2023年に開始予定の治験への意気込みを語りました。
臨床研究に協力した患者さんのインタビューでは、2019年12月に同種細胞シートの移植を受けた60歳代の2名が登壇。本治療前の激痛などの症状や治療に至る経緯、術後の経過を振り返り、「最近は手術した膝に痛みはなく、膝を意識せずにいる日もあるほど回復しています」「この治療が広がっていくことを願っています」と話しました。
続く座談会では、佐藤教授と橋本氏、株式会社DNAチップ研究所代表取締役社長の的場亮氏が、「産学連携による再生医療の実用化」をテーマに意見交換。細胞シートの品質評価に携わる的場氏は、「一般の方々の理解と支援を得ながらアカデミアととともに技術革新を進め、実用化を加速できるよう注力したい」と語りました。また、橋本氏は、「治験は佐藤先生のご指導の下、複数の医療機関で実施していきます。高品質の細胞シートを大量に作製するための培養技術の開発にも取り組み、日本だけでなく世界の膝関節症の患者さんにこの治療法を届けられるよう努力します」とコメント。佐藤教授は、「単に痛みの症状を和らげるのではなく、軟骨の構造を変化させるのがこの治療の特長です。治療効果を上げるため、細胞シートの有効性を担保する因子の解析も進めています。現在は、変形性膝関節症で高位脛骨骨切り術が適用になる患者さんが対象ですが、将来的には骨切り術適用以外の患者さんを細胞シートの移植のみで治療する方法についても開発し、より多くの患者さんを救いたい」と結びました。
最後に、AMED再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業(再生・細胞医療・遺伝子治療産業化促進事業)プログラムスーパーバイザーの梅澤明弘氏が、閉会の言葉を述べました。
※軟骨再生医療の詳しい情報は下記のURL、QRコードからからご覧いただけます。
◇整形外科 軟骨班HP
「東海大学における軟骨再生医療」
http://cellsheet.med.u-tokai.ac.jp/index.html
◇市民公開シンポジウム「知ろう×語ろう 軟骨再生医療のこれから」パンフレット電子ブックhttps://online.fliphtml5.com/kiqqx/vaoc/