医学部医学科の今井助教がクローン病に関する研究で「日本無菌生物ノートバイオロジー学会・佐々木正五賞」「日本潰瘍学会・学術奨励賞」を受賞しました

医学部医学科の今井仁助教(総合診療学系健康管理学/総合医学研究所)が、「炎症性腸疾患における病原性共生菌へのIgA応答と臨床応用」に関する研究発表により、1月21日、22日に本学伊勢原校舎で開催された第56回日本無菌生物ノートバイオロジー学会総会で「佐々木正五賞」、2月3から5日まで東京都内で開催された第50回日本潰瘍学会(GI Week 2023)で「学術奨励賞」を受賞しました。

「佐々木正五賞」は、無菌生物ノートバイオロジー(無菌状態の生物を作製し、それに既知の微生物を感染させて実験や研究に活用する学問)の第一人者で、東海大学医学部の初代学部長を務めた故・佐々木正五名誉教授にちなんで2016年に設けられた賞です。今井助教は本学医学部を卒業後、同大学院医学研究科で博士(医学)を取得しており、本学卒業生として初めての受賞となりました。両賞はいずれも、各学会における発表者の中から優秀な研究業績を報告した者に贈られています。今井助教は、炎症性腸疾患の一つである「クローン病」の原因となる病原性共生菌「AIEC」(接着性侵入性大腸菌)に特異的に反応する抗体「IgA」に関する研究成果を発表。クローン病の新たな診断・治療につながる成果として注目されました。

クローン病は、消化管に炎症や潰瘍、腸管狭窄が起こる原因不明の難病です。主に若年で発症し、腹痛や栄養吸収障害による著しいQOLの低下を招きます。薬物療法も進展していますが完治は難しく、手術による狭窄部位の切除や内視鏡による拡張術といった治療を施しても約40%の患者に再狭窄が起こるため、新たな治療法の開発が待ち望まれています。

今井助教はマウスを用いた過去の研究で、AIECが腸管の再狭窄を引き起おこすことを明らかにしており、近年、共同研究者によって、ヒトにおいても同様の症状が起きることが証明されています。今井助教は、腸管粘膜表面の病原菌に結合してその機能を無効にする働きを持つIgAとAIECの関連に注目し、本学科の穂積勝人教授(基礎医学系生体防御学)、同研究室に所属する大学院医学研究科先端医科学専攻(博士課程)2年次生の田中里佳さんらと共同研究を展開。無菌状態のマウスを作製してAIECのみを保菌させた状態を保つと、AIECだけに反応する特別なIgAが作られることを見出しました。

今井助教は、「AIEC特異的に誘導されるIgAの活用により、患者さんのAIEC保菌の有無が特定できるようになり、クローン病の早期・正確な診断が可能になると考えられます。さらに、IgAはAIECの腸管上皮細胞への接着を防ぐため、より効果的な治療への応用も期待できます。今回の受賞は、多くの皆さんにご協力いただいたおかげと感謝しています。この成果を臨床に生かすべく、さらに研究を加速させたい」と意欲を語ります。

穂積教授は、「本成果と今井助教の受賞は、無菌生物ノートバイオロジーのパイオニアであった佐々木正五先生の研究成果と、その姿勢が、本学科に脈々と受け継がれている証であると感じています。佐々木先生は、『各専門分野の研鑽とそれらの協力、更には学際領域の統合など“共存の医学”こそわれらが進むべき道である』と説かれました。今回の結果は基礎医学と臨床医学の研究者や分野の異なる研究者らの“共存”によって成し遂げられたものであり、佐々木先生の理想を具現化できたことをうれしく思います」と話しています。

なお本成果をまとめた論文が、2月23日に科学雑誌『Frontiers in Microbiology』オンライン版に掲載されました。論文は下記URLからご覧いただけます。
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmicb.2023.1031997/full