【おしえてセンセイ! 05】化粧水はどうして肌にいいの?

A.乾燥をうまくコントロールしてくれるからです

理学部 物理学科 新屋敷直木先生

肌の水分は体内から常に供給されている一方、表面からは蒸発し続けています。普段はこの「供給される量」と「蒸発していく量」のバランスが保たれているのですが、洗顔後の水分量は一時的に増えた後、なんと普段よりも減ってしまい、肌のバリア機能が低下します。本来はそこからゆっくりと元へ戻っていくのですが、朝晩洗顔を繰り返すとバリア機能の回復が間に合わず、乾燥肌になってしまうのです。物理学では目標値(ここでは普段の水分量)を一時的に下回る現象を「アンダーシュート」と呼びます。洗顔後の肌では、まさにこのアンダーシュートが起きているのです。

化粧水には、アンダーシュートで乾燥した肌を普段の水分量へとソフトランディングさせる働きがあります。仕組みはこうです。化粧水の水分は皮膚を膨張させ、ほかの物質を入りやすくします。肌に入り込んだグリセリンやヒアルロン酸などは、水よりも蒸発しにくいため、皮膚の表面に残って乾燥を遅らせます。水に溶けた物質はたいがい水分子の動きを遅くするのですが、化粧水の水分が徐々に蒸発して水以外の成分の濃度が上がっていくと、水分子はさらに動きを制限され、蒸発しにくくなります。

肌は水分が多ければいいというわけではありません。お風呂でシワシワになった指先のような状態が続くと困りますよね。大切なのは保水と乾燥のバランスで、化粧水による「乾燥のコントロール」は、じつはかなり高度な仕組みだと思います。

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分子は互いに引き合う一方で、温度(運動エネルギー)が高いほど活発に動きます。運動エネルギーが高いと分子が互いの引力を振り切って自由に動いてしまうため、分子間でどんな力が働いているのかが見えにくくなるのです。私の研究室では逆に、-100度という低温下での水の分子運動を調べ、その法則を解き明かす研究をしています。

-100度なんて、みなさんの暮らしからはかけ離れた研究に思えるかもしれませんね でも、私の研究も、洗顔後の肌で起きるアンダーシュートも、水が液体・気体・固体と変化するのだって、みんな物理の話です。世界は物理法則で成り立っていると言っても過言ではないのです。

水の分子運動を調べるのは、何かの役に立つ技術をすぐに生み出すためではありません。まずは、水がなぜそのような性質を示すのかという根本的な仕組みを理解するためです。アインシュタインが考えた相対性理論も、いまはGPSなどに活用されていますが、彼の「時間、空間、光、重力とは何かを知りたい」という純粋な欲求がたまたま後世で役に立っているだけなのです。学問の根源的な面白さは、こうした知的好奇心から「何でこうなっているんだろう?」と問いを立てることにあります。

物理学は、身近な現象を入口にして世界の成り立ちに触れることができる、壮大な学問です。日常的な光景も、見方を変えれば「何で?」に溢れています。その問いを深めていく喜びを知れば、毎日は今よりきっと、ずっと面白くなるはずですよ!


しんやしき・なおき 1964年沖縄県生まれ、東海大学理学部卒業後、東海大学大学院理学研究科博士課程前期物理学専攻修了。富士写真フイルム勤務、1992年に退職。1994年に博士(理学)の学位取得後、東海大学理学部物理学科に着任。物理学科主任、総合理工学専攻長、総合理工学研究科長を経て2024年より現職。専門は、化学物理、ソフトマターの物理など