観光学部観光学科の田中伸彦教授が携わっている林野庁「令和元年度『森林サービス産業』緊急対策事業」で実施した「新しい日常における森林活用の意向調査」の速報値が、森林サービス産業プロモーション共同企業体※を通じて9月11日に公表されました。田中教授は、同事業の「森林空間利用促進プロモーション検討委員会」の座長を務めており、今回のアンケートのとりまとめを主導したほか、結果の分析なども進めています。
今回の意向調査では、20代から50代の男女3200名に対して国土の約7割を占める広大な森林空間と農山村の活用に関する意向を調査。新型コロナウイルス感染症の拡大にともない新しい日常の浸透が進む中で、森林に対してどのような意向を持っているのかを質問。その結果、農山村への移住・定住に関心を持つ希望者の割合は24.4%(4人に1人)、希望者のうち「実際にテレワーク等が可能ならば移住・定住したい」という人が7割を超えることが分かりました。移住・定住の理由としては、全世代で「自然にあふれた魅力的な環境だから」が65%で突出して高く、農山村特有の自然に価値を感じる人が多いことを確認。そして若い男性は「都会に疲れた」こと、子育て女性層は「子どもに良い環境」を移住・定住の理由に挙げる割合が高いことが数値的に明らかになりました。また、移住・定住時の希望業種については、「農業」が39.7%で最も多かった点では過去の内閣府世論調査と変わりませんが、「第3次産業」(23.8%)や、「林業」(18.6%)、「IT・情報産業関連」(16.9%)、「再生可能エネルギー産業」(16.9%)と回答が分散しました。つまり、農山村への移住・定住時における希望職種は、サービス産業やホワイトカラーなど、多様化が進んだことが明らかになりました。
田中教授は、「今回の調査は、緊急事態宣言が発令されるに至った国内の新型コロナの第一波がいったんおさまり、再び大きく増加する直前の6月26日から29日に実施できました。つまり、国民が『アフターコロナ』『ポストコロナ』の世界に向けて現実味を持って進み始められるかもしれないと考えていた貴重な時期における、”ポストコロナ時代における農山村の森林活用への意識”をとらえられました」とコメント。また、「新型コロナによって、観光業界の中でも、長距離移動を伴う外国人旅行者などが減少することで、大きな打撃を受けている企業が多数あります。それは人々の移動が止まった結果引き起こされた事象です。移動関連産業は、旅行に限らず通勤通学や出張需要の減少などの影響も受けていて、今後新たな経営戦略を模索する必要が生じました。一方で、観光産業の中でも観光まちづくりなどの地域を管理経営する企業の中には、逆に活気を呈した業種もあります。たとえば、キャンプなどのアウトドア需要や、軽井沢などの別荘地需要は今年になってから上昇機運にあります。アンケート結果にあるように、ワーケーションや移住も上昇機運にあります。移住・定住希望者が第3次産業やIT・情報産業関連を職種として挙げるなど、いわゆる観光地、リゾートでもテレワークに対応した開発や需要が進むことが考えられ、すでにそれに対応する仕事も増えています。日本の観光立国推進政策は『住んでよし、訪れてよし』をキャッチフレーズにしていますが、そのうちの『住んでよし』の部分がクローズアップされるようになったといえます。アウトドア需要の取り込みに対しては、農山村の観光地では森林など活用して、ポストコロナ時代を見据えた新たな魅力を創り出していかなくてはなりません。コロナ以前から着地型観光が着目されていましたが、その動きが新型コロナウイルスによって加速化したと言えるでしょう。新たな観光地づくりにおいては、情報発信などプロモーションのあり方などにもさらなる工夫が求められます。今後、このアンケート結果をさらに分析し、論文としてまとめて発表していきます」と話しています。
意向調査に関するプレスリリースは下記から参照できます。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000063944.html
※森林サービス産業プロモーション共同企業体は、林野庁「令和元年度『森林サービス産業』緊急対策事業」を受託して事業を行う民間組織。株式会社I&S BBDO(東京)、株式会社スペースキー(東京)、株式会社武田林業(愛媛)の三社からなり、「森林サービス産業」の展開を通じて、新たな需要者層の拡大のためのプロモーション等を実施します。また、森林サービス産業とは、平成30年度から林野庁より提唱されている新たなサービス産業で、山村の活性化に向けた「関係人口」の創出・拡大のため、森林空間を健康、観光、教育等の多様な分野で活用するものです。