大学院医学研究科先端医科学専攻の田中里佳さんが日本細菌学会総会で「優秀発表賞」を受賞しました

大学院医学研究科先端医科学専攻(博士課程)2年次生の田中里佳さんが、3月16日から18日まで兵庫県で開催された第96回日本細菌学会総会で「クローン病関連大腸菌のcyclic-di-AMPシグナルの亢進」をテーマに研究成果を発表し、「優秀発表賞」を受賞しました。

クローン病は、消化管に炎症や潰瘍、腸管狭窄が起こる原因不明の難病です。病態形成には接着性侵入性大腸菌(AIEC)が強く関与すると指摘されています。一方、AIECの明確な病原因子は同定されておらずヒトへの感染経路も分かっていません。田中さんらはこれまで、ヒト腸管内でAIECは“病原菌(異物)”として免疫系に確実に識別され、特別な抗体が産生されることを見いだしていました。本研究は、AIECがどのように腸管上皮への付着性を発揮するようになったのか、その要因とルーツを細菌学的アプローチにより探索。結果、腸内細菌由来の特定の低分子化合物がAIECの運動能を高め、腸管上皮への付着性を誘発することを明らかにしました。この結果は、腸内細菌叢を含めた特定の腸内環境が、消化管内に共生する潜在的病原菌の発生や共生菌のキャラクター変化を誘引し、疾患の発症につながる共生細菌対宿主のバランスの崩壊を招き得ることを意味しています。

指導する津川仁講師(基礎医学系生体防御学領域)は、「特定の腸内環境がそこに共生または感染してくる細菌の特性を変化させ、その病原性をもコントロールするという現象を具体的に提示することができました。受賞はその重要性が認められた結果だと思います。田中さんにはこれを機に研究者としてさらに成長してほしい」と激励。穂積勝人教授(同)は、「結果が出なくてもあきらめず、多様な分野の研究者に積極的にアドバイスを求めながら地道に努力する田中さんの姿勢を見て、多くの人が協力を申し出てくれました。そうした姿勢も評価できます」とたたえます。

田中さんは、「先生方や生命科学統合支援ユニットの技術員の皆さんに指導・支援していただき感謝しています。学会総会では発表後にさまざまな分野の研究者と意見を交わし、新たな気付きが得られました。当面の目標は本研究を論文化してクローン病の病態解明を進めることですが、この成果を足掛かりとして、将来は免疫細胞が病原菌とそれ以外を見分けるメカニズムの解明にも挑みたい。受賞を励みに、さらに努力を続けます」と意欲を見せています。