中谷講師らが言語機能における小脳の役割を解明し、国際学術誌に論文が掲載されました

情報通信学部の中谷裕教講師がこのほど、東京大学大学院総合文化研究科の中村優子准教授と帝京大学先端総合研究機構の岡ノ谷一夫教授とともに、言語機能における小脳の役割を解明。この研究成果が8月4日に、国際学術誌『The Cerebellum』(オンライン版)に掲載されました。

ヒトが言語を使う際、脳の大脳皮質左半球にあるブローカ野やウェルニッケ野が大きく関与していることが知られています。一方で、脳の活動を可視化する「脳機能イメージング技術」が発達する中で、小脳外側部にも言語にかかわる脳活動が確認されるようになりました。これまで小脳の代表的な機能は、身体制御などの運動機能にあると考えられていたことから、言語機能における具体的な役割は明らかになっていませんでした。研究グループでは「言語のようなヒトを特徴づける高次元機能にも小脳外側部が密接に関与しているのではないか」と仮説を立て、2020年度から文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「共創的コミュニケーションのための言語進化学」の助成を受けて研究をスタートさせました。中谷講師らは、日本語を母国語とする28人に対して、「太郎は花子が試験に合格したと聞いた」のような埋め込み構造のある短文を提示し、そのときの脳活動を機能的磁気共鳴画像法(fMRI)で計測。埋め込みの深さによって変化する脳活動の差異を評価すると、大脳皮質差半球にあるブローカ野だけでなく、小脳外側部にある「Crus-I」という部位が対応した脳活動を示していることが分かりました。また、ブローカ野とCrus-Iの脳活動は同期しており、これらの部位が連携して文法処理を行っていると明らかにしました。

中谷講師は、「小脳の外側部はヒトの進化の過程において、ここ数百万年で急激に大きくなったことが分かっています。本研究の成果は、言語の起源と進化を考える上で重要な視点を提供するものであり、今後は音声コミュニケーションを多用する鳥類やげっ歯類、霊長類を対象にした動物研究と融合させることで、言語の起源と進化に関する研究の進展にもつなげていきたい」と話しています。