オンラインシンポジウム「美人画をときほどく」を開催しました

東海大学文明研究所では9月23日に、オンラインシンポジウム「美人画をときほどく」(協力=海の見える杜美術館、美人画研究会)を開催しました。本シンポジウムは、本研究所員で教職資格センターの篠原聰准教授を研究代表者とするプロジェクト「美人画に関する基礎的研究」の一環として、6月5日に女子美術大学美術館と共催した「美人画・熟考」の続編として企画したもので、今回は広島県・海の見える杜美術館で9月4日から11月7日までの日程で開かれている特別展「美人画ラプソディ・アンコール―妖しく・愛しく・美しく―」に合わせて実施しました。「熟考」の際と同様にこれまで顧みられることの少なかった美人画の歴史や成り立ちを考え、若手研究者の成果発表を通して美人画をときほどいていくことを趣旨とし、学生や一般の方など約50名が参加しました。

開会にあたり、本研究所の山本和重所長(文学部教授)がシンポジウム開催の経緯を説明し、「今回のシンポジウムが近代美術史研究の進展に有意義なものとなることを祈念しています」とあいさつしました。続いて、篠原准教授がシンポジウム開催の狙いを説明。その後、海の見える杜美術館学芸員の森下麻衣子氏が同美術館で開会中の美人画ラプソディ・アンコール展の概要や展示作品を紹介するとともに「近代日本の美術界における女性像をまとめて展示することで美人画が作成された意義や当時の絵画表現に与えたインパクトを明らかにしていきたい」と語りました。

続いて、神奈川県立歴史博物館主任学芸員で本学非常勤講師も務める角田拓朗氏の司会進行でパネルディスカッションを実施。まず研究発表の部として、3名の研究者が登壇しました。総合研究大学院大学の山本由梨氏は「美人画の受容」と題して、明治から昭和初期にかけて開かれた文部省美術展覧会(文展)における美人画のあり方や当時の婦人雑誌に掲載された記事から女性が美人画を受け入れていった様子を解説しました。実践女子大学香雪記念資料館学芸員の田所泰氏は「よそおいから見る美人画」をテーマに、美人画に描かれた人々の服装から当時の風俗を探った成果を紹介。また、鎌倉市鏑木清方記念美術館の今西彩子氏(本学非常勤講師)は、鏑木清方の描いた少女画に関する研究成果を披露し、文芸雑誌の口絵を通して女性の憂いの表情を描き、挿絵と本画の表現を使い分けていた点などを指摘しました。

次に、これらの研究成果に対して名都美術館学芸課長で近畿大学非常勤講師の鬼頭美奈子氏と横浜市歴史博物館学芸員の𠮷井大門氏がコメント。両氏はそれぞれの研究成果について感想を述べつつ、発表者と質疑応答を行いました。さらに篠原准教授が「un-ルッキズムの視点 海の見える杜美術館のコレクションを手掛かりに」と題して、外見に基づく差別である「ルッキズム」を否定する立場である「un-ルッキズム」の考え方を説明しながら、美人画への向き合い方や鏑木清方や千種掃雲らの作品についての解説も交えつつ、「美人画という呼び名は男性目線のルッキズムともとらえられるが、今回の登壇者の方々は女性目線や作品本位の視点など性別以外からの視点を取り入れた研究成果を紹介されました。現代社会では『美人画』という言葉自体の肩身が狭くなっているように感じられるが、言葉を避けてしまうと逆に見えなくなってしまう問題もある」とまとめました。