医学部医学科の中川講師が参加する研究コンソーシアム「G2P-Japan」が、新型コロナウイルス「デルタ株」が従来株に比べて高い病原性を示すことを明らかにしました

医学部医学科基礎医学系分子生命科学の中川草講師(総合医学研究所/マイクロ・ナノ研究開発センター)らの研究グループが、新型コロナウイルス「デルタ株」(B.1.617.2系統)が従来株と比べて高い病原性を示すことを発見。その内容をまとめた論文が11月25日に、イギリスの権威ある科学雑誌『Nature』オンライン版に掲載されました。この成果は、東京大学医科学研究所附属感染症国際研究センター・システムウイルス学分野の佐藤佳准教授の主宰する研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan)」が発表したものです。中川講師は大規模な遺伝情報を活用し、さまざまな環境や生物に存在するウイルスの同定や進化などの解析に取り組んでおり、ゲノム科学の専門家としてG2P-Japanに参加しています。 

新型コロナウイルスは流行過程において高度に多様化し、感染力が強くなったり免役から逃れたりするといった、性質が変異したウイルス(変異株)が生じています。昨年末にインドで発生したデルタ株は全世界に伝播してパンデミックの主たる原因変異株となっており、世界保健機関によって、警戒度が最も高い「懸念すべき変異株」(流行の拡大によって出現した顕著な変異を有する変異株)に指定されました。 

研究グループではデルタ株のウイルス学的特性を調べるため、まず、培養細胞を用いた感染実験を実施。デルタ株は従来株や他の「懸念すべき変異株」よりも細胞同士が融合する活性が高く、巨大な細胞塊(合胞体)を形成することを見出しました。次にハムスターを用いた実験により、デルタ株は従来株に比して、ウイルスの増殖効率はほぼ同程度であるものの、病原性が高いことを突き止めました。さらにその要因を解明するため、細胞と結合するとげ状の「スパイクタンパク質」に生じるデルタ株特有の変異「P681R」(681番目のアミノ酸がプロリン(P)からアルギニン(R)に置き替わった変異)に着目。P681Rを挿入して人工合成した新型コロナウイルスの感染実験により、P681R変異を有するウイルスはデルタ株と同様に、親株に比べてより大きな合胞体を形成することを見出しました。また、ハムスターへの感染実験により、P681R変異を持つウイルスは親株よりも高い病原性を示すことも発見。これらの研究から、デルタ株は高い病原性を有し、その特性はP681Rというたった一つのアミノ酸変異によって担われていることを明らかにしました。 

中川講師は、「デルタ株は世界各地に広がり、地域ごとにさまざまな変異を獲得しており、その中にはP681Rのような有害なアミノ酸変異が存在する可能性は否定できません。加えて、スパイクタンパク質を中心に多くの変異を獲得したオミクロン株などの報告もあり、このようなウイルスの変異を抑えることは原理的に不可能です。しかし、感染者数を減らすことで、有害な変異が発生してそれが伝播してしまう危険性を下げることは可能と考えます。今後も新型コロナウイルスの変異とその変異が感染拡大に寄与する可能性を明らかにする研究に注力していきたい」と話しています。 

※『Nature』に掲載された論文は下記URLからご覧いただけます。 

https://www.nature.com/articles/s41586-021-04266-9