文明研究所に数理物理学者の小澤正直特任教授が着任しました

文明研究所に6月1日付で、数理物理学者の小澤正直特任教授(名古屋大学名誉教授、理学博士)が着任しました。量子力学や量子情報科学、数理論理学を専門とする小澤特任教授は、身体性の哲学・心理学を専門とする本研究所の田中彰吾所長(大学院文学研究科長、文化社会学部教授)らと共に、両分野を融合させた新たな研究・教育に取り組みます。

小澤特任教授は、東京工業大学理学部情報科学科を卒業、同大学院を修了後、アメリカのハーバード大学やノースウェスタン大学の客員研究員を経て、東北大学大学院情報科学研究科教授、名古屋大学大学院情報科学研究科教授などを歴任。量子測定理論や量子集合論などに関する数々の画期的な成果を発表しています。2003年には、ノーベル賞を受賞したドイツの理論物理学者ヴェルナー・ハイゼンベルクが1927年に提唱した「不確定性原理」の定式化が一般には成り立たないことを理論的に示し、新たな関係式(小澤の不等式)を発表。その正しさを、ウィーン工科大学の長谷川祐司准教授(現・同大学教授)らと実験で検証し、12年に報告しました。この「不確定性原理」の再定式化を生んだ小澤特任教授の量子測定理論研究は、重力波望遠鏡LIGO(ライゴ)による世界初の重力波の検出に貢献。量子暗号や量子コンピューター開発の基盤になるなど、量子情報技術の飛躍的な発展につながっています。こうした多様な功績により、08年に「日本数学会賞秋季賞」、10年に「文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)」、12年に「藤原洋数理科学賞大賞」などを受賞。15年には「紫綬褒章」、23年には「瑞宝中綬章」を受章しています。

小澤特任教授は、「学園の創立者・松前重義博士がデンマークの国民高等学校の教育を範とされたことを、大変感慨深く思っています。松前博士が同国を訪れた1934年ごろは、量子力学を巡る議論がヨーロッパで活発に行われていた時期と重なります。議論の中心であったコペンハーゲンのニールス・ボーア研究所にも、国民高等学校と同様に誰もが自由に対話できる環境がありました。松前博士が国民高等学校に見いだした理想は、文明研究所にも色濃く投影されていると感じます。本研究所が領域や世代の垣根を超えた自由闊達な対話によって学術文化の起点になれるよう、少しでも貢献できればと考えています」と話しています。

【田中彰吾所長から】
1925年に誕生した量子力学が100年を迎え、新しいステージへと踏み出す今、小澤先生を本研究所にお迎えできてうれしく思います。量子力学が物理学として、また、現象学が哲学として形成された時期は重なっており、2つの学問はきわめて近い問題意識の中で、試行錯誤しながら一歩ずつ前進してきた歴史を持っています。1世紀を並走した2つの学問の“間”にあるものをあらためて考え、『量子力学の哲学的な含意』として示せればと考えています。