情報理工学部の黒田学部長の研究グループがAMEDの橋渡し研究戦略的推進プログラムに採択されました

情報理工学部の黒田輝学部長(情報科学科教授)らのグループによる研究プロジェクト「RF 誘電加温ハイパーサーミアによるがん温熱療法のためのMRI温度計測技術の開発」が3月17日に、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「橋渡し研究戦略的推進プログラム」の令和2年度橋渡し研究異分野融合型研究シーズに採択されました。このプログラムは、優れた基礎研究の成果を臨床研究・実用化へ効果的に橋渡しできる体制を構築し、革新的な医薬品や医療機器等の創出を推進することが目的です。今回採択されたのは、その一環として首都圏の私立大学をはじめとする臨床研究機関が結成している首都圏ARコンソーシアム(Metropolitan Academic Research Consortium, MARC)が展開しているもの。医学部を有する大学において、医学部以外の学部に所属する研究者が中心となって展開するプロジェクトを支援することで、日本発の革新的な医薬品・医療機器の開発を目指しています。

黒田学部長は病気の検査に使う磁気共鳴画像化法(MRI)を応用した、体内の温度分布や物質輸送の非侵襲可視化などに取り組んでいます。今回の研究はがんに対する温熱療法(ハイパーサーミア)を行う際の患部温度をMRIで画像化することを目指しています。ハイパーサーミアはがん細胞が熱に弱いことを利用した治療法です。43℃程度の温度において、正常細胞では周囲血管が拡張し血流量が増加することで冷却効果が強く働きますが、がん細胞ではこのような血流量増加がなく、冷却効果が弱いため壊死に至ります。1980年代に積極的に研究され、これまでに世界中で数多くの施設で治療が実施されてきました。中でもコンデンサの極板の間に人体を挟み、8MHzの交流電界によって加温するRF誘電加温は西洋人と比べ脂肪層の少ない東洋人に適した治療法です。近年、熱ストレス蛋白の研究や免疫療法が発展すると共に、外科的切除や投薬、放射線治療と比べて副作用もないことから再び注目を集めています。しかし、患部が何℃まで温められているのかが可視化されておらず、主として医師の経験に頼りながら治療が行われてきました。黒田学部長らは、これまでMRIを使って細胞内の水の水素原子核と、クエン酸、コリンあるいはクレアチンの水素原子核の磁気共鳴周波数差を測定し、温度分布を画像化する方法を開発してきました。今回採択された課題では、ハイパーサーミアが有効な前立腺がんにターゲットを絞り、この方法を応用した前立腺内の温度分布画像化を目指しています。

黒田学部長は、「RF誘電加温によるハイパーサーミアは、日本のメーカーが臨床機を開発し、発展させてきた数少ない治療分野です。温度分布を可視化する機能を与えることで、治療が定量的にモニタされ、これまでよりも効果的かつ安全な治療を提供できると考えています。今回の採択を機に研究を発展させ、実用化につなげていきたい」と語っています。