沖縄地域研究センターの河野裕美教授と防災科学技術研究所の下川信也氏、村上智一氏がこのほど、英文書籍『Geophysical Approach to Marine Coastal Ecology-The Case of Iriomote Island,Japan』(和名:海洋沿岸生態学への地球物理学的アプローチ−西表島において・Springer社)を出版しました。本書は、河野教授らが西表島北西端に位置する崎山湾・網取湾自然環境保全地域をフィールドとして、沿岸海洋生態系に関わる生物の生態やそれらの生態分布に対応した物理環境、その双方の関係を解明しようと継続してきた研究成果をまとめたものです。
沖縄地域に広がるサンゴ礁や海草藻場、干潟やマングローブ河川は、熱帯・亜熱帯地域の多様な沿岸海洋生態系を形成し、人間にも多様な恩恵をもたらしてきました。しかし現在では、世界中で多くの沿岸海洋生態系が危機に瀕しており、2016 年には海水温上昇によって世界各地で大規模なサンゴの白化が見られ、西表島も例外ではありませんでした。また、石垣島の新空港開港に伴い観光客が増加し、森林域・海域を含めた島嶼生態系に与える影響が懸念されています。河野教授は本センターが西表島の網取湾口部に開設された1976年以降継続して多様な生物群の生態調査を実施しており、本書では地形的・環境的な環境勾配の大きな崎山湾・網取湾自然環境保全地域のサンゴ,ウミショウブ,オオナキオカヤドカリの分布と幼生や種子の滞留・分散移動についての研究成果をまとめられています。
河野教授は、「崎山湾・網取湾は日本国内で唯一の海域で指定された自然環境保全地域です。この地域に至る陸路がないため、人為的影響の少ないまま自然環境が保持されています。また湾奥の河川や急激な水深変化といった空間的環境勾配とともに、夏季の台風や冬季の大陸高気圧からの北東季節風などの時間的環境勾配もあるため、沿岸海洋生態系にかかわる物理環境の解明には最適なフィールドでもあります。この豊かな自然環境の中で、私たちは生物学・海象気象学などさまざまな視点から長期間にわたって研究を続けてきました。生物の生態を知るためには観察を欠かすことはできませんし、継続的にデータを蓄積することは何よりも大切なこと。本書の内容をまとめることができたのは、西表島に研究施設のある東海大学だからこそだと考えています。また本書が、危機的状況にある造礁サンゴや海草藻場などの沿岸海洋生態系の保全に資することを願っています」と話しています。