生物学部生物学科卒業生の伊藤陽平さん(北海道大学大学院修士課程2年)が、「北海道・樽前山の火山性斜面に局所的に生息するヒバリの環境選好性」を解明。その成果が7月29日に発行された日本鳥学会の国際誌 『Ornithological Science』に掲載されました。伊藤さんは本学在学時に松井晋講師の研究室に所属。平成30年度科研基盤研究(C)の助成を受けて立教大学と東京農業大学の研究者と共同で実施した火山帯のガレ場に生息するヒバリの調査結果をもとに、卒業論文として今回の研究成果をまとめました。
ヒバリは主に農耕地や河川敷など低地の開けた草地に生息しますが、近年になって日本各地の火山・高山帯のがれ場にも生息していることが明らかになりました。火山や高山帯は低地と比べて気温が低くエサが不足しやすいため、ヒバリが主に活動する低地の環境と大きく異なりますが、その生態の多くが謎に包まれています。そこで伊藤さんらは、樽前山の火山斜面に調査区を設置。その結果、山斜面上に約27羽のヒバリの雄がなわばりを形成し、斜面の中でも山頂付近の東側斜面に集中していることがわかりました。伊藤さんらはさらに、なわばりを形成した場所と調査地からランダムに選んだ場所の環境を比較。その結果、ヒバリは草丈が低く見通しの良い環境をなわばりとして選んでいることが明らかになりました。また、なわばり内はヒメスゲ(カヤツリグサ科)の被覆率が高いことも判明。樽前山の火山斜面には高山植物が豊富な一方で、産座の巣材に利用できるような単子葉草本はほとんど生育していません。論文内ではヒメスゲが巣内側の巣材として利用できる限られた植物種だったのではないかと推察しています。
論文が掲載されたことを受け、伊藤さんは、「大学時代の研究成果が海外の研究者にも日本の研究を広くアピールできる国際誌に掲載されたことはとてもうれしい。私はもともと高山植物に興味があったので、火山の特殊な環境と高山植物の局所的な分布の関係を自分なりの視点でヒバリの生態と結び付けてまとめることができたと感じています。今回の経験を自信にして、今後の研究活動に励みたい」と話し、指導に当たった松井講師は、「近年、人為的な開発により世界各地でヒバリの生息に適した農耕地や河川敷が減少しています。本研究は、これまで注目されることが少なかった火山帯に生息するヒバリの環境選好性を世界で初めて報告したものです。この成果を今後のヒバリの保全に活用していきたい」と語りました。