全国紙(=全国で配達される新聞)の記者は、東京の政治部や社会部に配属される前に地方で5~10年ほど修行します。今から約20年前、読売新聞社に入社した私は群馬県に配属されました。そして前橋市の郊外をドライブしていたある日、慌てて急ブレーキを踏みました。「鼻毛石」という信じられない地名を道路標識に発見したのです。
「鼻毛、石…?」どうしてこんな地名になったのだろう。近くのコンビニに入って店員に話を聞くと、驚きました。由来となった「鼻石」と呼ばれる中世の巨石が現存しているというのです。さらに、数年前に「恥ずかしい住所の名前を変えたい」とアンケートが行われたが、由緒ある地名を守りたいという住民が多数となった結果、今も地名が残っているとのこと。記事にしたところ、ぶらり訪ねた居酒屋でこの記事の切り抜きが貼られているのを見つけるなど、思わぬ反響がたくさんありました。
街の話題に関する記事を「街ダネ」と呼びます。悲惨な事件事故や政治家の汚職など様々な取材に携わりましたが、私はこの街ダネ取材が一番好きでした。ちょっとしたきっかけから人々の郷土愛や地道な取り組みにたどり着く過程が、宝探しのように思えたのです。
好奇心を起点に集めた様々な情報を、一つのお話にまとめて世の中に発信する。私が体験した「宝探し」を学生にも味わってもらうことで、メディアが果たす役割への理解が深まるのではないか。こうした考えから、私のゼミナールでは街ダネ記事の取材・執筆を活動の中心に据えています。記事は、神奈川県全域および東京多摩地域で配布されている地域情報紙「タウンニュース」が運営するウェブサイト「政治の村students」に掲載されています。ゼミ生たちはこれまで以下のような記事を書いてきました。
・人気の理由は?海老名の「いま」を学生が取材
https://seijinomura.townnews.co.jp/students/2020/12/kasahara1223-1.html
・コロナ禍で輝く職業人
https://seijinomura.townnews.co.jp/students/2021/06/
・総選挙 東海大生が東海大生に取材しました
https://seijinomura.townnews.co.jp/students/2021/10/kasahara211025.html
2021年度秋学期は、小田急線新百合ヶ丘駅周辺の取材に取り組んでいます。地域のボランティアによる運営で今年27回目を迎えた「しんゆり映画祭」や、同駅と横浜市営地下鉄を結ぶ新駅の建設が決まるまでの道のりなど、たくさんの出会いと発見を重ねています。記事は来年1月頃に公開予定。ご一読いただけると幸いです。