工学部機械システム工学科の川本裕樹研究員が「2023 JSAE/SAEパワートレイン・エネルギー潤滑油国際会議」でベストペーパーアワードを受賞しました

工学部機械システム工学科の川本裕樹研究員が、8月29日から9月1日まで京都市で開催された「2023 JSAE/SAEパワートレイン・エネルギー潤滑油国際会議」(主催:公益社団法人自動車技術会、米国SAE International)で「ベストペーパーアワード」を受賞しました。この会議は当初、米国でSAEが主催して「燃料・潤滑油国際会議」として開催され、2000年からは日本をはじめヨーロッパ、中国、アフリカ、南米など世界各国で開催されるようになり、時代を反映して「パワートレイン・燃料潤滑油国際会議」と改称。今回から日本で開催される場合は「パワートレイン・エネルギー潤滑油国際会議」と呼称され、地球の平均気温上昇を1.5℃未満に抑えるために2050年までにカーボンニュートラルを達成することを宣言した「パリ協定」の目標に向けて、幅広い動向や最新技術をめぐる活発な議論を目的にしています。今回は「2050年カーボンニュートラル社会に向けた技術課題」がテーマとして設定され、川本さんは”Clarification of Fuel and Oil Flow Behaviour Around the Piston Rings of Internal Combustion Engines: Visualization of Oil and Fuel Behaviour by Photochromism in Gasoline Engine Under Transient Operating Conditions”と題して発表しました。

川本さんは本学科の落合成行教授、畔津昭彦客員教授らのもとで、エンジンの心臓部にあたるピストンが稼働している最中に、ピストリングという部品の周りで潤滑油であるエンジンオイルや燃料の流れ方を可視化する世界初の技術開発に取り組んでいます。畔津客員教授が長年開発に取り組んできたフォトクロミズムの技術を応用してピストンリング周辺で実際に油が流れている様子をリアルタイムで観察することに成功し、研究は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の2019年度「国際研究開発/コファンド事業/日本―ドイツ研究開発協力事業(CORNET)」に採択を受けました。その後、ドイツのハンブルグ工科大学が持つ質量分析手法に基づくオイル消費量解析技術とフォトクロミズム技術を組み合わせ、ミュンヘン工科大学の可視化ガソリンエンジンに適用することで、エンジン駆動中にピストンリング周りで生じている燃料やオイルの流れと消費量をより詳細に解明することを目指して研究を重ねてきました。川本さんはその実証実験のために、畔津客員教授や大学院生らとともに2021年9月から11月の3カ月間にわたりドイツに滞在し、3大学の技術を統合し、より実機に近い形での共同実験に挑戦。今回の発表はその成果を披露したものです。

「東海大のフォトクロミズムとハンブルグ工科大の質量分析手法は共に世界で唯一の技術です。これまでの実験ではエンジンを回転させるだけで燃焼まではさせませんでしたが、今回はミュンヘン工科大学の優れた可視化エンジンに適用し、プロセスも含めて実際の運転状態に近づけ、圧力や温度が変わる厳しい条件で計測しました。そのデータをフォトクロミズムと質量分析という異なる手法によって比較して現象を説明しました。この3大学でなければできない世界初の計測実験となりました」と川本さん。現地では実験の緊張に加え、厳しい感染対策などの苦労もあったといいます。現地での実験に際して装置の改善などが必要になると、同行した大学院生2名が図面を描き、現地の担当者や整った設備のバックアップを得て専門的力量を発揮しました。「彼らの尽力もあり、東海大が開発したフォトクロミズムがエンジンに限らずさまざまな分野の多様な条件下で適用できる可能性が広く認知されました。今後は、複数の物資の流れをシミュレーションで計算する分野への経験も生かし、今回得られた結果を応用して総合的に実験と計算の両方で評価し合い、高効率なエンジンの改良や開発につながるように新しい現象の説明や設計に資する有効なツールや予測式などの構築に取り組みたい」と抱負を話しました。

畔津客員教授は、「コロナ禍における機材の輸送に始まり、綿密な準備作業にもかかわらず現地では全12週間の期間のうちの約半分がトラブルシューティングに費やされるなど、さまざまな困難がありました。実験が主体の研究なのでリモートでは不可能なことに加え、装置の扱いなど経験と知見を積み重ねた習熟度が求められます。私がドイツで実験に立ち会えたのは最初の2週間ほどでしたので、帰国後は連日、ドイツとリモートで協議してきました。東海大のメンバーとミュンヘンのメンバーが力を結集してさまざまな問題を解決してくれたおかげで、後半の6週間はスムーズに実験ができました。コロナ禍でも研究の重要性を重んじてドイツへの派遣を許諾してくれた大学には感謝しかありません。また何よりも、川本さんや大学院生たちが健康で帰国してくれたことがうれしかった」と振り返りました。研究の今後について、「東海大発のフォトクロミズム可視化手法がさまざまな実験で使われるようになってきたのは、技術として洗練されてきた証拠なので非常にうれしい。夢はこの技術が日本中、世界中で使われることで、今回はその一歩。これからも研究を見守りつつ問題解決を支援していきたい」と話しています。