光・画像工学科の立崎講師らの研究グループが、ヒトiPS細胞に高強度テラヘルツ光パルスを照射すると遺伝子ネットワークの一部で発現量が変化することを明らかにしました

工学部 光・画像工学科の立崎武弘講師らの研究グループが、ヒトiPS細胞に高強度テラヘルツ光パルスを照射すると、遺伝子ネットワークの一部で発現量が変化することを明らかにしました。この研究は、京都大学の亀井謙一郎氏(高等研究院物質―細胞統合システム拠点(iCeMS)准教授)と廣理英基氏(化学研究所准教授・iCeMS連携准教授)、坂口怜子氏(工学研究科助教・iCeMS連携助教)らと共同で手掛けたもので、研究成果は9月24日付でアメリカ光学会刊行の国際学術雑誌『Optics Letters』のオンライン版に掲載されており、11月15日発行予定の印刷版(Vol.45,No.22)にも掲載されます。

iPS細胞はあらゆる細胞に分化する可能性を持った多能性幹細胞として、再生医療や創薬への応用が期待されていますが、希望通りの機能を持つ細胞に変化させる技術は確立されていません。今回の研究では、高強度テラヘルツ光パルスを培養条件下のヒトiPS細胞に照射する装置を開発しました。その装置によって、細胞が増殖するためにベストな環境を維持しつつ、非接触かつ最大の効率でピンポイントにテラヘルツ光を生細胞に照射できるようにしました。この装置を使って実験を行い、テラヘルツ光照射の有無による細胞内の遺伝子発現量の変化を網羅的に解析した結果、遺伝子ネットワークの発現量が増加(亢進)している部分と低下している部分が存在することを初めて明らかにしました。この研究によって、高強度テラヘルツ光パルスを使い、非接触で細胞に損傷を与えることなく遺伝子の発現パターンを変化させることができることがわかり、テラヘルツ光パルスで多能性幹細胞の運命を自在に操作する技術の開発につながると期待されます。

立崎講師は装置の設計と開発、実験を担当しました。「高強度テラヘルツ光パルスを自在に制御してピンポイントに照射できる研究者がほとんどいません。さらに、これまでは細胞にとってベストな環境を維持したままテラヘルツ光を照射することもできていなかったため、今回の研究によって画期的な成果を出せたと考えています。今後はテラヘルツ光パルスの強度や偏光状態などを制御する技術を応用し、さまざまな条件で生じる遺伝子発現の変化を分析することで、iPS細胞の制御に活用できるようにしたいと考えています。またテラヘルツ光パルスは、直流成分から2テラヘルツまで幅広い周波数の光を同時に発することができるほか、低エネルギーで非破壊的でありながら1ピコ秒という超短時間に効果的に強い電場を加えられるなど特徴を持っています。今後も幅広い分野への応用の可能性を探っていきたい」と話しています。

【参考記事】
・プレスリリース
https://www.icems.kyoto-u.ac.jp/_wp/wp-content/uploads/2020/10/20201002_press_release_iCeMS_kamei_opticsletters.pdf

・Phy.org記事(英語)
https://phys.org/news/2020-10-terahertz-zaps-gene-stem-cells.html