
医学部医学科総合診療学系小児科学領域の山田佳之教授と煙石真弓講師、川村大揮助教が、千葉大学、かずさDNA研究所の研究者らと共同で、卵黄による食物蛋白誘発胃腸炎(FPIES)の病態を解明。その成果をまとめた論文が2月13日に、国際医学雑誌『Clinical & Experimental Allergy』オンライン版に掲載されました。
FPIESは、特定の食物を食べるとすぐにジンマシンなどの症状が出る一般的な即時性食物アレルギーと異なり、食物を摂取した後、一定時間が経過してから嘔吐や下痢といった症状が現れるのが特徴で、数時間程度で症状が出る「急性」と、数日から数週が経過してから症状が出る「慢性」に分けられます。乳幼児のFPIESは10年ほど前から急激に増加しており、時にショック症状を引き起こすなど重症化するケースもありますが、疾患の発症機序は十分に解明されておらず、有効な治療法も確立されていません。ほとんどが3歳ごろまでに治るといわれていますが、治癒が確認されるまで年に2、3回入院して検査(経口食物負荷試験)を受けなければならず、患者や家族の負担が大きいことも課題になっています。
研究グループは病態を解明するため、卵黄による急性FPIES患者の経口食物負荷試験前後の血液と唾液を採取し、「高深度プロテオーム解析」により含まれるタンパク質とその動態を精密かつ網羅的に調査。その結果、FPIESの症状が現れている患者の血清中には、免疫に関わる特定のタンパク質と、白血球の一種である好中球の活性化によって病原体除去などの際に炎症に関与するタンパク質が増加していることを明らかにしました。山田教授は、「好中球は病原体を排除する働きを持つ一方で、強く働くと炎症を引き起こす場合があり、FPIESの発症についても好中球の活性化が関与している可能性が示唆されました。血清中で増加しているタンパク質の働きと好中球の機能を詳細に調べることで発症メカニズムを解明し、疾患の判断基準や治療標的となるバイオマーカーを特定できると期待されます」と意義を説明します。
煙石講師と川村助教は、「バイオマーカーが特定できれば初期に正確な診断が可能になり、患者さんと家族の物理的・精神的な負担軽減につながります」「医学部付属病院の患者さんをはじめ協力してくださった方のためにも研究を進展させたい」と意欲を語ります。山田教授は、「急性FPIESについては、原因となる食物を少量ずつ経口摂取してアレルギー反応が出にくくする治療法の研究も計画しています。慢性FPIESについても、便などを使った低侵襲な方法で病態解析を進める予定です。今回の成果はもちろん多様なアプローチで研究を進め、早期にFPIESの診断・治療法を開発したい」と話しています。
※『Clinical & Experimental Allergy』に掲載された論文は下記URLからご覧いただけます。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/cea.70007