医学部医学科の鈴木教授が参画する国際研究グループによる炎症性腸疾患の研究成果が『Nature』に掲載されました

医学部医学科内科学系消化器内科学領域の鈴木秀和教授(医学部付属病院炎症性腸疾患センター長)が参画する国際研究団体「GIVES-21コンソーシアム」(Global IBD Visualization of Epidemiology Studies in the 21st Century)が、炎症性腸疾患に関する長期的・世界的な疫学データを分析。その成果をまとめた論文が4月30日に、イギリスの権威ある科学誌『Nature』オンライン版に掲載されました。

炎症性腸疾患(IBD)は、下痢や腹痛、栄養の吸収不足などを引き起こして寛解と再燃を繰り返す難病で、潰瘍性大腸炎とクローン病に代表されます。遺伝や環境、腸内の免疫異常によって発症すると考えられていますが、実際のところ、原因は確定されていません。19世紀半ばから20世紀初頭に北アメリカやヨーロッパで発見されて以降、同地域を中心に広がり、日本でも1990年代から急増。厚生労働省「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班」による2014年度の調査では、潰瘍性大腸炎の患者数は約22万人、クローン病の患者数は約7万人と報告されています。

GIVES-21コンソーシアムでは、カナダ・カルガリー大学のギラード・カプラン博士と中国・香港中文大学の黃秀娟博士が中心となり、1920年から2024年までに蓄積された世界82の地域における522のIBDに関する疫学データについて、発生率(年間の新たな診断者数)や有病率(IBDを患っている人の総数)を分析。その結果、IBDは工業の発展や食生活などのライフスタイルの変化により、「ステージ1:出現期」「ステージ2:発生率の加速的増加期」「ステージ3:有病率の安定的増加期」を経て、数十年後に「ステージ4:有病率の均衡期」に至るという4つの疫学段階で展開することを明らかにしました。鈴木教授は、「IBDが将来どのように進展するかを予測できたことがポイント。たとえば、アジアやアフリカの新興国はステージ1の段階ですが、工業化の進展による患者数の増加を見越してIBDに対する医療体制を整えるという準備ができます」と意義を説明します。

「日本は新規の患者数が増えているステージ2の段階にあります。本病院でも患者数が増えていることから、IBDに対する診療体制のさらなる充実を図るため、今年4月、医学部付属病院に炎症性腸疾患センターが開設されました。本センターでは、消化器内科・外科をはじめ、小児科、小児外科、産婦人科などの診療科や多職種と連携した集学的治療を展開しています。また、リサーチマインドを持った専門医を育成してIBDの原因や病態解明を進めるとともに、若年で発症される患者様を生涯かけて診ていく所存です。今回は、GIVES-21コンソーシアムの一員として世界に貢献できたことを光栄に思います。今後は、その成果を、患者様や地域医療にも還元していきます」と話しています。

※『Nature』に掲載された論文は下記URLからご覧いただけます。
https://www.nature.com/articles/s41586-025-08940-0