総合医学研究所がコアプロジェクトに関する座談会と公開セミナーを開催しました

総合医学研究所では7月29日に伊勢原キャンパスで、2024年度のコアプロジェクトに関する座談会と第1回公開セミナーを開催しました。本研究所の中川草准教授(医学部医学科基礎医学系分子生命科学領域)が展開するコアプロジェクト「ウイルス様エレメント(VE)研究基盤の創設と発展」の概要を所員が共有するとともに、学内の研究者にその意義や関連分野についての理解を深めてもらい、研究を進展させることを目的として実施したものです。所員や医学部の教員をはじめ、研究イノベーションセンターの職員や大学院生ら多数が参加しました。

本研究所では、医学部医学科の教員を兼務する所員らが、基礎医学と臨床医学の有機的融合による疾患の病態解明や新たな診断・治療法の開発、創薬研究を推進し、特にゲノム・再生・創薬に関する顕著な業績を国内外に発信しています。今年度から、優れた個人研究を研究所の旗印となる研究に昇華させるため、研究部門を「オミクス※」「脳神経」「感染免疫」「再生医学」「病態生理」の5部門に再編し、部門長に若手・中堅の所員を任命。また、コアプロジェクトの研究期間を延長するとともに研究費を集中配分し、外部評価者を招くなど制度の充実も図っています。

座談会はコアプロジェクトのキックオフイベントとして実施したもので、中川准教授をはじめ、外部評価者を務める東京医科歯科大学名誉教授の石野史敏氏と大阪大学微生物病研究所教授の渡辺登喜子氏、本研究所の森正樹所長(医学部長)、所員の扇屋大輔講師(内科学系血液・腫瘍内科学領域)が登壇しました。初めに中川准教授が、これまで携わってきたゲノム科学、生命情報学、ウイルス学に関する研究や本プロジェクトを立ち上げた背景について説明。VE(ウイルスに由来すると考えられる塩基配列)が炎症や疾患を引き起こすという最近の研究報告を紹介し、「VEに関するデータベースを開発するとともに、その解析を通じてVEと疾患との関係や発症のメカニズムを明らかにし、制御の可能性を検討したい」と述べました。続いて登壇者が、ヒトだけが持つウイルス由来遺伝子の特定や新種のウイルス性感染症の発見、VEと血液がんとの関係の解明、人類の多様性に関する研究といった本プロジェクトの可能性について意見を交わしました。

公開セミナーでは、外部評価者の石野氏と渡辺氏が基調講演。石野氏は、「ヒト・哺乳類におけるウイルス由来の獲得遺伝子の重要性について」をテーマに、本学医学部の金児-石野知子客員教授と続けてきた研究成果を紹介。ウイルス由来の獲得遺伝子であるSIRH遺伝子群が哺乳類の胎盤形成や脳機能の高度化、自然免疫に重要な役割を持つことを説明しました。渡辺氏は、「ウイルス性新興感染症の制圧を目指して」と題して、感染症が発生した地域における現地調査の様子を紹介したほか、新型コロナウイルスや鳥インフルエンザウイルス、エボラウイルスの増殖メカニズムの解明や治療薬・ワクチンの開発といった、現在取り組んでいる研究についても概説しました。各講演後には活発な質疑応答や意見交換を行いました。

最後に森所長が、「外部評価者の先生方から、今年度のコアプロジェクトのスタートを飾るにふさわしい講演をしていただきました。VEに関する研究はまだ発展途上にあります。総医研としての研究の進展を期待しています」と閉会の言葉を述べました。

※オミクス:生体内に存在する分子全体を網羅的・統合的に研究する学問