医学部付属病院がタイ・ランシット大学医用生体工学部の卒業生らを対象とした生体工学技士(BME)研修を実施し、両機関のスタッフらが相互に訪問しました

医学部付属病院では12月5日から8日まで、タイ・ランシット大学医用生体工学部の学生を対象とした生体工学技士(BME)研修を実施しました。この取り組みは、タイにおけるBME制度の確立や人材育成に協力するため、本病院の医師や臨床工学技士(CE)が「東海大学医学部付属病院診療技術部TRICOLOR (Tokai Rangsit International Collaboration on Resources of Humans and Medical Devices)プロジェクト」として展開しているものです。今年度は8名が参加し、本病院を拠点に医療機器の保守管理について学びました。

医学部では、2015年度にタイ公衆衛生省と医療分野を担う人材育成に関する覚書を取り交わすなど、タイとの連携を推進しています。この研修は、ランシット大学医用生体工学部の開設やBMEの育成に携わってきた本学の松浦武信名誉教授(元工学部電気電子工学科教授)の働きかけにより17年度に開始。19年度から3年間は、国立国際医療研究センター国際医療協力局「医療技術等国際展開推進事業」の一環として実施しました。今回の研修では、本病院のCEが中央手術室や血管造影室、エネルギーセンターなどの施設を案内し、人工心肺装置や血液浄化装置といった医療機器の構造や保守管理方法について講義。テルモ株式会社の協力を得て、医療機器のトレーニング施設を備えたテルモメディカルプラネックス(神奈川県中井町)も見学しました。

また今年度は、コロナ禍で延期になっていた両国の大学・医療機関の相互視察(「松前重義記念基金国際活動助成」対象事業)も実施しました。11月21日から12月1日には、ランシット大の教員とチュラロンコン大学病院、バンコク病院のBME部門の責任者が来日し、1月29日から2月1日には、本プロジェクトの代表者である医学部医学科の木ノ上高章准教授(基盤診療学系衛生学公衆衛生学)と、同じく代表を務める付属病院診療技術部臨臨床工学技術科の西原英輝科長補佐、同科の小島優技師がタイを訪問。互いの施設を見学し、両国における医療やCE、BMEの現状に関する理解を深めました。さらに本病院の一行はタイの日本大使館も訪れ、プロジェクトへの協力に対する感謝を伝えるとともに、これまでの成果や今後の展開について説明しました。

西原科長補佐は、「本事業を推進する中で『患者安全』という共通の課題も見出され、多職種連携やタスクシフトといった視点から、その解決策について学び合う機会にもなっています。タイの医療スタッフからは、“部下をBME研修に参加させたい”“在宅透析に協力してほしい”といった希望が寄せられ、人財育成はもちろん、患者さんに対する具体的なケアにもつながっていると実感しています。また、今回のタイ訪問は、先進的な医療機関だけでなく、日本大使館や東海大学アセアンオフィスバンコク事務所とのネットワークの構築につながり、事業をさらに進展させる機会にもなりました」と成果を語り、小島技士も、「当方に対する具体的なニーズも把握でき、今後の展開に向けてよい関係を築けました」と振り返りました。

診療技術部の川又郁夫部長は、「このプロジェクトは医療技術職が大学組織の一員として国際社会に貢献する機会となっており、CEのモチベーション向上とともに、海外の医療事情を知り、視野を広げるきっかけにもなっています。また、専門的な知識や技術を生かしたCEとしての業務だけでなく、大学病院ならではのグローバルな活動ができる、やりがいのある職場づくりにもつながっています。タイのBME関係者とは本音で意見を交わせる関係となり、事業をさらに発展させる土台ができたと感じています。今後も関係者の協力を得ながら、プロジェクトを継続していきたい」とコメント。 木ノ上准教授は、「タイでは日本の20年後を追いかけて少子高齢化が進み、生活習慣病も増加しており、今後、ヘルスケアにおいてBMEが活躍する場面が多くなると想定されています。日本の保健医療政策の成功例や失敗例を伝えてタイの政策に生かしてもらうことも重要な国際貢献の一つです。今年度は、コロナ禍における3年間のオンライン討議を経て、ようやく直接会って現場を見ながら、日本の事例や双方の状況、本プロジェクトの展開について率直に語り合うことができました。本病院は、医療現場の最前線にいるCEが産業界の人々と顔を会わせ、互いに学び合える環境にあります。そうした交流を継続して産官学連携を促進し、より実効性のある事業に育つことを期待しています」と話していました。