医学部医学科総合診療学系救命救急医学領域の渡邊伸央講師と猪口貞樹客員教授らの研究グループがこのほど、ヒトとマウスの血小板の働きを活性化させる物質を選択的に阻害できる化合物の基本構造を、世界で初めて発見。その成果をまとめた論文が11月15日に、学術誌『Thrombosis and Haemostasis』オンライン版に掲載されました。がんや動脈硬化における血栓症を防ぐ薬剤の開発につながる成果として期待されています。
血小板は血管の傷に凝集して出血を止める重要な因子ですが、がんや動脈硬化を発症している場合には血管内を塞いでしまい、血栓症を引き起こすことが知られています。がん患者における静脈血栓症は死因の約2割を占めており、その一部は、がんの細胞膜に発現する糖タンパク質・ポドプラニンが血小板のポドプラニン受容体(CLEC-2)を活性化させることで生じた静脈血栓が関与しているとされています。一方、動脈硬化症の場合は、血管内にできたプラーク(こぶ)が崩壊した際に露出したコラーゲンと血小板のコラーゲン受容体(GPVI)との結合によって凝集が誘発され、心筋梗塞や脳梗塞の原因となる動脈血栓が発生します。血栓を誘発するカギとなるのはCLEC-2とGPVIの2つの受容体ですが、これらの働きを阻害する薬は見つかっておらず、2つの受容体に選択的に働く抗血小板薬(特に経口投与が可能な低分子化合物)の開発が待ち望まれています。
本研究グループでは、総合医学研究所の平山令明客員教授(前・先進生命科学研究所長)の協力を得て、独自のコンピュータプログラムにより化合物の結合を評価。約700万の既存の化合物から抗CLEC-2候補となる化合物を絞り込み、約100種について実験的検証を行いました。この結果、「diphenyl-tetrazol-propanamide骨格」という化学構造を持つ12の化合物が、CLEC-2のポドプラニン結合部位とGPVIのコラーゲン結合部位の両方に接続でき、それぞれとの相互作用を阻害して、ヒトとマウスの血小板の凝集反応を抑制することを見出しました。
渡邊講師は、「この成果により、これまで困難とされていたCLEC-2、GPVIの両方の受容体に対する低分子阻害剤の開発に道が拓かれました。今回、本研究グループが発見したdiphenyl-tetrazol-propanamideという基本骨格の改変によって、がん関連の血栓症やがんの転移、動脈硬化関連の血栓症に有効な治療薬・予防薬の開発が加速すると期待されます。臨床応用を目指してさらに研究を続けます」と話しています。
※『Thrombosis and Haemostasis』に掲載された論文は下記からご覧いただけます。
https://www.thieme-connect.de/products/ejournals/abstract/10.1055/a-2211-5202
※本研究の内容は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の中国語サイトでも紹介されています。
https://www.keguanjp.com/kgjp_keji/kgjp_kj_smkx/pt20240119000001.html