大学院体育学研究科では湘南キャンパスで5月29日に、2019年度第1回東海大学「健康スポーツ科学セミナー」を開催しました。このセミナーは学内外から健康やスポーツ科学の専門家を招き、大学院生や教職員に知識の幅を広げてもらおうと、年に4回開いているものです。今回は、オーストラリアカトリック大学教授の杉山岳巳氏を講師に招き、「環境デザイン―身体不活動と生活習慣病との関連―」をテーマにご講演いただきました。
開会にあたって体育学研究科長の萩裕美子教授があいさつに立ち、「日本の健康づくり分野において、人々が生活する環境を変える必要があると提唱されています。皆さんは大学院でさまざまな領域の研究をされているかと思いますが、今日は環境という新たな視点で健康について考えてみてください」と語りかけました。
杉山氏は一級建築士の資格を要し、環境行動学や空間疫学などを専門に、環境デザインが健康に与える影響について研究。その中で、スポーツや歩行、自転車、仕事・家庭内での働きなどを指す「身体活動」が健康の促進につながる研究成果が出ているにもかかわらず、身体不活動(運動不足)の人が多いのは環境に要因があると提言しています。講演では、「人の行動は必ずしも合理的ではなく、健康のために身体活動をするべきだと認知はしても、実際の行動にはつながるケースは多くありません。18世紀の産業革命以降、都市部へ通勤する『職住分離』の家庭や自動車での移動が増え、歩行や自転車などの身体活動が減っている」と指摘しました。また、住居用の土地利用が多いと歩行運動が減り、商業用に開発した土地では歩行運動が増加した海外の事例を紹介。街路構造や公共交通網など、身体活動を容易にする環境の整備の必要性を語り、「私たちの日ごろの行動は環境への応答が習慣化したものであり、近隣環境が身体不活動につながっています。日本には日本のエビデンスが必要なので、今後は日本における環境と身体活動の研究を進めていきたい」と話しました。
最後に、本研究科専攻長の山田洋教授が閉会の辞を述べ、「東海大学には建築や環境について研究している学科もあるので、共同研究の可能性にもつながると考えられました。大学院生には都市や環境といった新しい視点を今後の研究に生かしてもらいたい」と語りました。