
医学部医学科の高橋雅道教授(外科学系脳神経外科学領域主任)と国立研究開発法人国立がん研究センター、理化学研究所の研究者らが、神経膠腫の指標となる遺伝子変異の有無を画像データからAIで予測する診断支援モデルを開発し、精度を検証しました。その成果をまとめた論文が7日10日に、国際学術誌『npj Digital Medicine』オンライン版に掲載されました。
代表的な脳腫瘍の一つである神経膠腫の治療方針や治療後の病態は、腫瘍に関与する遺伝子の変異によって大きく異なります。特に、細胞のエネルギー代謝に関わる遺伝子「IDH」の変異の有無は重要な指標となっています。早期からAIの可能性に注目していた高橋教授は、2017年に国内の医師と共同で研究コンソーシアムを立ち上げ、遺伝子解析を完了している神経膠腫患者のMRI画像データを集めてデータベースを構築。同時にAIの開発や画像解析を得意とする研究者に声をかけて研究チームを結成し、収集した日本人データと公開されている世界の患者データをAIに機械学習させて、IDHの変異の有無を予測できる診断支援モデルを開発しました。さらに、海外と日本人の合計20症例の画像データを用いて、脳腫瘍の診療に関わる医師18名による読影結果とAIモデルの予測結果を比較・評価し、AIモデルの有用性と課題を明らかにしました。
「AIの診断能力を人と比べて検証できたのが本研究のポイントです」と高橋教授は説明します。「今回開発したAIは、若手医師の診断能力を凌駕した一方、経験豊富で優れた読影能力を持つ医師には及ばないことが分かりました。優れた医師の視点や判断基準を言語化・数値化してAIに学習させれば、より能力の高いAIモデルの開発が可能になります。また、診断がつかない場合には“分からない”と答えるといった、不確実性を提示できる能力もAIに加えるべきというのがこの論文のメッセージです」。
高橋教授は、脳神経外科医として臨床に携わる中で、「手術では治せない悪性脳腫瘍の患者さんを救いたい」と考え、東京大学大学院医学系研究科やアメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で研究に注力。帰国後も基礎研究と臨床研究を続け、新薬の治験にも取り組んでいます。「脳の機能を守りながら腫瘍だけを除去・消滅できる治療法を開発するのが目標です。治療の選択肢を広げ、一人でも多くの患者さんを救えるよう、引き続きさまざまなアプローチによる治療法の研究を続けます」と意欲を語っています。
※『npj Digital Medicine』に掲載された論文は下記URLからご覧いただけます。
https://www.nature.com/articles/s41746-026-02695-2