医学科の三上教授らが卵巣がんを早期に発見できる新たな診断システムを開発しました

医学部医学科の三上幹男教授(専門診療学系産婦人科学)らの研究グループが、株式会社LSIメディエンスの田辺和弘氏と共同で、卵巣がんを早期に発見できる新たな診断システムを開発。成果をまとめた2本の論文「網羅的血清糖ペプチドスペクトル解析をAIに応用した卵巣癌早期診断法の開発」「網羅的血清糖ペプチドスペクトル解析を応用した卵巣癌早期診断法の開発」が、8月21日に医学雑誌『cancers』オンライン版に掲載されました。

卵巣がんは発見時に進行している場合が多く、女性の約200人に1人が死に至る予後不良のがんです。国内の卵巣がん患者の死亡率は、若年層で欧米よりも高いことが報告されており、死亡率を低下させるためには早期発見が不可欠といわれています。現在は、単一分子(タンパク質)に対する抗原抗体反応を基本とした分子測定をはじめ、血液などの体液に含まれるマイクロRNAや血中循環腫瘍DNA(がん細胞から血液中に漏れ出したがん由来のDNA)の測定によって診断されていますが、検診に用いることができる腫瘍マーカーは開発途上にあり、より精度の高い診断法の開発が待ち望まれています。

研究グループでは、既成概念を打破する新たな発想とアプローチで新規腫瘍マーカーの探索と診断法の研究に取り組み、液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)による「網羅的血清糖ペプチドスペクトラ解析(CSGSA:シースジーサ)」を開発しました。CSGSAは、血液中の糖タンパク質を糖ペプチドに分解・濃縮してLC/MSに投入し、卵巣がん陽性の場合に高い値(ピーク)を示し、かつ再現性のある約2000種の糖ペプチドを抽出して分析するシステムです。抽出した2000種のピークデータを患者間で比較して単一の腫瘍マーカーを同定するとともに、個々の病態を判別できます。CSGSAに統計学的解析法(OPLS-DA法)や人工知能(深層学習)を応用し、2000種のピークデータを2次元バーコードに変換後、パターン化(色付け・可視化)して初期卵巣がんを診断する2つのアルゴリズムの開発にも成功しました。

三上教授は、「CSGSAは、がんの特異的な物質を探索するという従来から行われている方法に加え、糖ペプチド全体の変化のパターンを把握して疾患の有無を判別する、これまでになかったコンビネーションによる診断法です。産婦人科医をはじめ、統計学や分析科学、バイオインフォマティクスといった多様な分野の研究者が協働し、最新の知見やテクノロジーを駆使して研究を続けてきました。1滴の血液から早期かつ確実に卵巣がんを発見できれば、検診の負担を軽減し、卵巣がんで亡くなる女性を減らすことができます。CSGSAによる診断の精度をさらに向上させ、臨床試験に取り組んでいきたい」と話しています。

なお、『cancers』に掲載された論文は下記URLからご覧いただけます。
https://www.mdpi.com/2072-6694/12/9/2373
https://www.mdpi.com/2072-6694/12/9/2374