医学部医学科外科学系整形外科学領域が、11月16日に横浜市で開催された「第15回JAPSAM PRP・幹細胞研究会」を企画運営しました。この研究会は、特定非営利活動法人先端医療推進機構(JAPSAM)が先進的な医療技術の研究・開発や臨床試験の支援事業の一環として、PRP(多血小板血漿)や幹細胞などのバイオロジクス(生体由来物質を用いた製品)による再生医療を実施・計画している研究者らの情報交換を目的に開かれています。今回は、本領域の佐藤正人教授が主催世話人を務め、「再考・バイオロジクス」をテーマに実施。オンラインも併用し、医師や大学・企業の研究者ら約160名が参加しました。
初めに、代表世話人で名古屋大学名誉教授の岩田久氏が登壇。同研究会の発足の経緯を紹介し、参加者への謝辞を述べました。続いて、医学部付属病院などで国内初となるPRPを用いた変形性膝関節症治療の多施設共同の医師主導治験を展開している佐藤教授が、自由診療として行われているPRPや脂肪幹細胞を用いた細胞療法・再生医療の課題を説明し、「オピニオンリーダーや第一線で活躍する研究者の講演を通じて会員と参加者が共通の理解を深めながら、課題に関する議論を尽くしたい」とあいさつしました。
エキスパートセミナーでは厚生労働省の細谷聡史氏が、再生医療等の迅速かつ安全な提供と普及促進を目的とした「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」と、今年6月に公布された改正法について概説。PRP療法に対する今後の同法の適用のあり方に関して、治験データ等の科学的エビデンスの蓄積の重要性についても言及しました。医薬品、医療機器、再生医療等製品等の品質、有効性及び安全性の確保を担う独立行政法人医薬品医療機器総合機構の河西正樹氏は、「再生医療等製品については、各製品の特性を踏まえた上で市販後の安全対策を講じることが重要」と語り、市販品に関する情報の収集・分析や、必要な情報をタイムリーに提供するための具体的な取り組みを紹介しました。
「多様なバイオロジクスを深掘りする」と題したスポンサードシンポジウムには、6名の医師が登壇。PRPやAPS(自己タンパク質溶液)、脂肪幹細胞を用いた関節、皮膚、血管などの再生医療・細胞治療の症例や治療成績を紹介しました。特別講演では、埼玉協同病院の桑沢綾乃氏が、変形性膝関節症の患者に対するAPSと脂肪幹細胞による治療効果の持続期間や効果の減弱・不応例の経過を重症度別に分析した結果を考察しました。
最後に、同研究会の副会長で元・本学医学部長の堀田知光氏が、「再生医療等安全性確保法が施行されて10年になりますが、今日の講演や活発な議論を通じてその発展を実感しました。本研究会のさらなる充実を期待しています」と閉会の言葉を述べました。
なお、当日のプログラムは以下のとおりです。
◇開会挨拶
岩田 久氏(JAPSAM PRP・幹細胞研究会代表世話人、名古屋大学名誉教授)
◇主催世話人挨拶
佐藤正人教授(東海大学医学部医学科外科学系整形外科学領域 教授
同大学院医学研究科運動器先端医療研究センター センター長)
◇エキスパートセミナー
座長:佐藤正人教授
講演1「再生医療等安全性確保法の改正概要と今後について」
講師:細谷聡史氏(厚生労働省 医政局 研究開発政策課 再生医療等研究推進室 再生医療等対策専門官)
講演2「再生医療等製品の市販後安全対策の現状について」
講師:河西正樹氏(独立行政法人医薬品医療機器総合機構 医薬品安全対策第二部 調査役)
◇スポンサードシンポジウム「多様なバイオロジクスを深掘りする」
座長:関矢一郎氏(東京科学大学再生医療研究センター センター長)
新井祐志氏(京都府立医科大学大学院医学研究科 スポーツ・障がい者スポーツ医学 准教授)
演者:松崎時夫氏(成田整形外科 院長、理事長)
河野正明氏(興生総合病院 副院長)
宇都宮啓氏(東京スポーツ&整形外科クリニック 医師)
井上 肇氏(聖マリアンナ医科大学形成外科学講座 客員教授)
海野早織氏(セルポートクリニック横浜院長)
田中里佳氏(順天堂大学大学院医学研究科再生医学主任教授、同医学部形成外科学講座 教授
同順天堂医院足の疾患センター センター長)
◇特別講演
座長:佐藤正人教授
講演「実臨床から考えるバイオロジクスの適正使用」
講師:桑沢綾乃氏(埼玉協同病院整形外科部長 同病院関節治療センター 副センター長)
◇閉会挨拶
堀田知光氏(JAPSAM PRP・幹細胞研究会副会長、国立がん研究センター名誉総長
公益財団法人がん研究振興機構理事長)