総合医学研究所ではメタゲノム解析の手法を用いて画期的な診断・治療法の開発を進めています

総合医学研究所ではメタゲノム解析の手法を用いて、画期的な診断・治療法の開発を進めています。本研究所では医学部医学科の教員を兼務する19名の所員が、「ゲノム・再生医療・創薬」を中核テーマとして、疾患の原因となる遺伝子の同定や病態解明、治療法の開発に取り組んでいます。現在は、環境中の微生物のゲノムを短時間で一挙に同定するメタゲノム解析の手法を用いて、腸内細菌叢や新型コロナウイルスを始めとする感染症病原菌に関する研究にも注力しており、多くの成果を挙げています。

バイオインフォマティクス(生命情報学)が専門の今西規教授(医学部医学科基礎医学系分子生命科学)は疾患の発症と遺伝との関連に着目し、ゲノム配列と多様な疾患との関係を分析して個人の疾患リスクを予測する技術の開発に取り組んできました。一方、疾患の環境要因である腸内細菌叢にも注目し、2015年から医学部付属病院の医師らと連携して感染症の原因微生物の同定システムの研究に着手。17年には次世代シーケンサーと2台の高性能パソコンを用いて、高精度かつ短時間で細菌や真菌、ウイルスを特定できるゲノム診断技術を開発しました。さらに、世界的に深刻な問題となっている薬剤耐性菌の診断技術の開発も進めており、「患者さんがどのような微生物に感染し、その微生物がどの薬に耐性を持っているかを短時間で検出できるシステムは必須。早急に完成させたい」と語ります。
 
今西教授とともにゲノム診断技術の開発に携わった中川草講師(同)は、ウイルスの性状解析や宿主との相互作用の解明にも従事。17年からは、新学術研究領域「ネオウイルス学」に公募研究班として参加し、多様な環境や生物に存在するウイルスをメタゲノム解析により同定するためのシステムを構築してきました。その経験や成果を生かし、新型コロナウイルスが持つORF3bとORF6の2つの遺伝子が、03年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)コロナウイルスよりも強力に自然免疫の誘導を抑えることなどを発見。その後も、変異と重症化との関係や個体差が生じる原因を研究しています。また、急性骨髄性白血病患者の白血球に発現するウイルス由来のゲノム配列の探索にも挑んでおり、「細胞免疫のターゲットとなる配列が特定できれば、免疫力を増強してがん細胞の増殖を抑える『がん免疫療法』に活用できる可能性がある」と展望を話します。

医学部付属病院の消化器内科で診療にあたる今井仁助教(医学部医学科総合診療学系健康管理学)は、クローン病や潰瘍性大腸炎など、原因不明の難病である炎症性腸疾患が専門です。今井助教は、アメリカ・ミシガン大学の研究者とのモデルマウスを使った実験で、口腔内の歯周病菌が腸炎を悪化させることを確認。また、クローン病患者から得た検体をメタゲノム解析し、歯周病菌が腸内から検出されることを明らかにしました。さらに、病原性を持ちながら免疫機能をすり抜けて腸管に定着する病原性共生菌にも注目。「腸内に到達する歯周病菌や病原性共生菌が病態に与える影響がわかれば、新たな治療の対象になり得る」と説明します。「最近は、健常者の糞便から抽出した細菌を使った治療も行われていますが、自分が目指すのは腸内細菌叢を乱さず、特定の菌をターゲットにする単細菌治療。実現に向けて努力したい」と意欲を見せています。

安藤潔所長(医学部医学科内科学系血液・腫瘍内科学教授)は、「基礎医学研究の成果を新技術の開発や臨床に生かし、総合的な医学の発展に寄与するのが本研究所の使命。そのために常に最新の知見や手法を取り入れて研究に臨んでおり、メタゲノム解析もその一つです。ゲノム情報と環境情報の融合は、個人の体質に応じたオーダーメード医療や予防医療の実現につながると期待され、本研究所では多くの画期的な成果を挙げています。人々の健康やQOL向上に貢献するため、学内外の多様な分野の研究者とも連携しながら、一丸となって研究に取り組みたい」と話しています。