医学部医学科の中川講師が参加する研究コンソーシアム「G2P-Japan」が、新型コロナウイルス「ラムダ株」の感染力増強の原因など明らかにしました

医学部医学科基礎医学系分子生命科学の中川草講師(総合医学研究所/マイクロ・ナノ研究開発センター)らの研究グループが、新型コロナウイルス「ラムダ株(C.37系統)」の感染力増強の原因などを解明。その内容をまとめた論文が2021年12月18日に、科学雑誌『Cell Reports』オンライン版に掲載されました。この成果は、東京大学医科学研究所附属感染症国際研究センター・システムウイルス学分野の佐藤佳准教授が主宰する研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan)」が発表したものです。中川講師は大規模な遺伝情報を活用し、さまざまな環境や生物に存在するウイルスの同定や進化などの解析に取り組んでおり、ゲノム科学の専門家としてG2P-Japanに参加しています。

新型コロナウイルスは流行過程において高度に多様化し、感染力が強くなったり免役から逃れたりするといった、性質が変異したウイルス(変異株)が生じています。2020年末に南米で発見されたラムダ株は、ペルーやアルゼンチン、チリなどで大規模なアウトブレイクを引き起こし、世界保健機関によって「注視すべき変異株(VOI)」に認定されました。

研究グループは、ラムダ株と同じスパイクタンパク質を持つシュードウイルス(感染力をなくした疑似ウイルス)を作出して培養細胞を用いた感染実験を行い、ラムダ株は従来株に比べて感染力が高いことを解明。続いて、ラムダ株のスパイクタンパク質に特有の変異をそれぞれ従来株に挿入して評価し、「T76I」と「L452Q」という2つ変異が感染力の増強に寄与することを明らかにしました。また、「L452Q」変異が、感染細胞を殺す細胞性免疫の誘導に関与するヒト白血球抗原「HLA-A24」に対して抵抗性を示すことも解明。さらに、ラムダ株のスパイクタンパク質は複数の変異によって感染増強抗体による感染促進効果を受けやすく、かつ、ワクチン接種によって誘導された中和抗体に対して抵抗性を示すことを見出しました。

中川講師は、「本研究により、ラムダ株の流行動態やウイルス学的・免疫学的性状の一端を解明できました。ラムダ株は2022年1月現在では、ほとんど報告されなくなりましたが、この研究で得られた知見は、次々に出現する新型コロナウイルス変異株の特徴をより詳細に理解するために有用と考えます。今後も、新型コロナウイルスの変異の早期捕捉と、その変異がヒトの免疫やウイルスの病原性・複製に与える影響を明らかにするための研究を推進していきます」と話しています。

※『Cell Reports』に掲載された論文は下記URLからご覧いただけます。

https://www.cell.com/cell-reports/fulltext/S2211-1247(21)01722-8