「熱音響冷却システム実証実験共同記者発表会」を行いました

東海大学と愛知県安城市の中央精機株式会社では8月9日に同社で、「熱音響冷却システム実証実験共同記者発表会」を行いました。地球温暖化の影響を受け、カーボンニュートラルの達成が企業活動における最重要課題として上がる中、「熱音響機関」の研究に取り組む本学総合科学技術研究所の長谷川真也教授(工学部機械工学科)らに中央精機から協力依頼があり、10年にわたって共同研究を実施してきました。熱音響機関は、工場や自動車などで化石燃料の燃焼によって生じる排熱(空気中に捨てられる熱)を回収して再利用する技術で、細い管に温度差を加えることで発生する音波を使うことで発電や冷却を可能とします。共同研究では、自動車用ホイールなどを手がける中央精機の生産ラインにおける設備の排熱を利用する「熱音響冷却システム」の実証実験を行い、一定の成果が得られたことから記者会見を実施。本学からは稲津敏行副学長(理系担当)、総合科学技術研究所の岩森暁所長、長谷川教授、千賀麻利子助教が登壇し、中央精機代表取締役社長の牛尾理氏らとともに報道陣に向けて成果を報告しました。

はじめに稲津副学長が、「カーボンニュートラルの実現に向けたさまざまな取り組みが行われる中、本研究はエネルギーの考え方を大きく変える可能性があり、持続可能な社会の実現に一歩を踏み出すものだと確信しています。今後も研究を推進し、社会実装を目指して邁進したい」とあいさつ。牛尾社長は、「実際に工場の排熱を使ってどれだけの冷却効果があるのか実証実験を繰り返してきました。今日は皆さんにもその成果を感じていただきたい。排熱を使うことでカーボンニュートラル削減に貢献できる」と期待を語りました。

続いて本学の長谷川教授が熱音響現象について、中央精機技術部部長の深谷典之氏が実証実験の概要を解説しました。今回開発した装置は横幅1.8m、奥行き1.2m、高さ1.7m で、250~430℃の排熱から変換した熱媒油と常温水を原動機から取り込み、その温度差で内部の気体が膨張と圧縮を繰り返して音波が発生します。導波管の一部を拡大した「コンプライアンス」を2カ所設け、管内音場を調整することで低温排熱を用いた冷却動作を実現しました。長谷川教授は、「工場排熱を熱音響機関に投入することで生じた音響パワーを、熱音響冷却機に入力することで-10℃の冷熱を生成しました。可動部品を使用していないためメンテナンスフリーであることも大きなメリットです」と話し、数値計算をもとに導波管の長さなどを導き出したことを説明。装置を製作した深谷氏は、「今回の結果を応用すれば、一般工場向けの冷房装置や冷凍庫だけでなく、船舶エンジン排熱による発電や冷房、一般家庭における太陽熱による発電機や空調、冷蔵庫などにも応用できると考えています。実証実験では冷熱を使った冷房ブースを設置しましたが、気温の高い工場内にクーラーを設けたミーティングルームや作業部屋を作ったり、ホイールを削ったときに使った油を冷やしたりといった活用ができる。今後はデータの蓄積や性能向上改善、コストダウンによる量産商品の開発に取り組み、2024年度にはカーボンニュートラル対応技術として事業を確立したい」と展望を語りました。

会見後には実証実験を行っている装置と冷房ブースを見学。質疑応答では実用化にあたっての課題や今後の事業展開について多くの質問が上がりました。