今川教授が日本胎盤学会で「胎盤進化とウイルスゲノムの関わり」をテーマに講演しました

総合農学研究所の今川和彦教授が、11月27日にオンラインで開催された第29回日本胎盤学会学術集会・第39回日本絨毛性疾患研究会「健やかな胎盤とくすり―母と子をまもる探究―」の教育講演で講師を務めました。本学会は「胎盤とその関連臓器の研究を主眼にして集まり、集会にて発表し、斯学の向上をはかる」ことが目的で、胎盤研究を通して臨床現場と基礎研究の研究者が交流できる場として開催されています。

今川教授は「胎盤進化とウイルスゲノムの関わり」をテーマに発表。ヒトの子宮内膜への着床は、受精卵・胚盤胞のトロホブラスト細胞が細胞融合を行うことで、胎盤の一部のシンシチオトロホブラスト(合胞体栄養膜細胞)が起こると解説した後、「最古の哺乳類とされるアデロバシレウスは卵生でしたが、レトロトランスポゾン由来の遺伝子PEG10をゲノム内に取り込むことで、1億4600万年前に胎盤を獲得したと言われています。爬虫類と比べ、哺乳類の機能遺伝子群は胎盤獲得当時からそれほど変わらないことを考えると、胎盤の多様化は5000万年前に爆発的に増大したレトロエレメントが影響しているのではないでしょうか」と説明します。さらに、「ヒトゲノム内でたんぱく質をコードする領域はたった1.5%なのに対し、SINE、LINE、ERVからなるレトロエレメントは約半数にあたります。生物の種によって異なるウイルスとして入ってきたため、違った胎盤を形成していると考えられます」と話しました。

ウイルスは生きた細胞の中でしか増殖できず、レトロウイルスも宿主の転写・翻訳機構を使って増殖するが、通常は宿主の免疫のために排除されます。ところが、たまたま生殖細胞に感染が成立した場合、レトロウイルスは生殖細胞に感染・ゲノム内に定着し、内在性レトロウイルス(ERV)として子孫に伝播していきます。異なるレトロウイルスがさまざまな動物種に感染して内在性レトロウイルスとなり、その一部が機能することで現在見られる胎盤形態になったと考えられます。哺乳類の系統図を比較するとさまざまな形態の胎盤が系統非依存的に見られることから、哺乳類とその特徴的な胎盤形態は系統的な進化ではなく、平行進化であると解説しました。また、細胞融合実験ではウシ内在性レトロウイルスK1(BERV-K1)を強制発現させることで細胞融合が起こることも解明。「生体は新しく入ってきたウイルス遺伝子の機能が優れていた場合、新しい遺伝子を使ってより効率のよい細胞融合システムに作り替える、『機能のバトンパス』を行っているのではないかという仮説を立てました。近年、レトロウイルスの内在化が認められるという事実から、これからも新しいウイルスの内在化が起こることも考えられます。これを踏まえると現在の哺乳類の胎盤は完成形ではなく、これからも進化する可能性がある」とまとめました。講演後には座長の藤原浩氏(金沢大学・産科婦人科学教授)を交えた質疑応答が行われ、参加者の質問に丁寧に答えました。