海洋学部と大学院海洋学研究科、海洋研究所では、11月20日に静岡市役所清水庁舎清水ふれあいホールで、地域の自治体や企業などを主な対象としたシンポジウム「海洋の環境保全と国際協力」を開催しました。国連が「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」を掲げる中、日本で唯一、海を総合的に学ぶことができる本学部が、海洋環境の保全をはじめとした海洋に関するさまざまな情報を地域の皆さまに積極的に発信することで、SDGsの実現に貢献していこうと企画したものです。新型コロナウイルス感染症拡大防止のために入場者数を制限したことから、より多くの方にご参加いただけるようにオンラインでのライブ配信も行い、全体で約80名が聴講しました。
当日はまず、本学の山田清志学長のあいさつに続いて、来賓を代表して静岡市の田辺信宏市長が登壇。「静岡市では、海洋文化都市というビジョンを掲げて清水港周辺の整備について、海洋学部とのパートナーシップでさまざまな仕掛けを進めています。その中で、清水港・日の出地区に海洋文化施設の開設を計画しており、十分な研究ができる学術的にも国際水準の施設を目指しています。新型コロナが収束したのちには、国内外の皆さまに立ち寄っていただき、駿河湾についての知識を得て、体験してもらえるようなものにしたい」と今後の連携への期待を語りました。
プログラムでは、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)前理事長で、今年度から海洋研究所の所長に就任した平朝彦教授が「人新世の海と地球―地球のスマート管理を目指す」をテーマに基調講演。初めに、人間の活動が過去のどの地質時代における変動より大きく地球を変え、全地球規模で地質記録が残っている「新しい地質時代」を表す言葉である「人新世」の概念について紹介し、1950年代を境に食料消費や水の利用、通信の増加など人々のさまざまな活動が変化し、同様に大気二酸化炭素濃度や表面気温、熱帯雨林の減少など地球環境が加速度的に変わっていった様子を解説しました。さらに、南北アメリカ大陸を中心とした人類の食糧供給と環境変動の関係性について触れ、「温暖化が進んだ地球は、今後数100年スケールで人新世以前の状態には戻りません。その解決に向けて、エネルギーや水利用の効率化の実現、農・畜産・水産業の抜本的改革、今後の人口推移と海洋環境がキーになる」と提言しました。また「今後、海洋研究所、海洋学部、海洋学研究科で駿河湾総合研究プロジェクトを立ち上げ、海洋立国日本への貢献と人新世を生きる知恵を育みたい。さらに2022年度に開設を計画している人文学部との連携にもつなげていければ」と今後の展望を語りました。
後半のパネルディスカッションでは、山田吉彦静岡キャンパス長のコーディネートで、海洋文明学科の脇田和美教授と大久保彩子准教授、環境社会学科の李銀姫准教授が、「海洋の環境保全と国際協力」のテーマに沿ってそれぞれの研究活動について紹介。さらに、山田キャンパス長からの「自身の研究活動をどのように駿河湾研究につなげますか」との問いかけにそれぞれが展望を語りました。最後に平教授が、「素晴らしい研究成果を上げる中で、世界に対してどのようなメッセージを伝えるかが重要。『駿河湾学』の構築を通じて、さまざまな形で発信を続けていきたい」とまとめました。
パネルディスカッションの登壇者と講演テーマは下記のとおりです。
脇田和美教授 「海に関する意識とSDGs(持続可能な開発目標)」
大久保彩子准教授 「南極海における人間活動と環境保全 ―国際協力の到達点と課題」
李銀姫准教授 「SDG14とグローバル・パートナーシップ」