医学部医学科の深川教授らによる慢性腎臓病患者の心血管疾患発症の日米比較に関する論文が『Kidney International』に掲載されました

医学部医学科の深川雅史教授(副医学部長・内科学系腎内分泌代謝内科学領域)らをメンバーとする研究グループ(下記参照)が、日本とアメリカの慢性腎臓病(CKD)患者における心血管疾患の発症率等を解析。日本のCKD患者はアメリカに比べて心血管疾患を合併する割合が低いことと、その要因となる因子を解明し、論文が腎臓病領域の国際誌『Kidney International』2023年5月号に掲載されました。

CKD患者では、透析治療を余儀なくされる末期腎不全に至るリスクとともに、心不全や脳卒中といった心血管疾患を合併するリスクも高まります。CKD患者の心血管疾患は、東南アジアに比べて欧米諸国で発症しやすいとされていますが、腎機能や尿蛋白、心臓病の既往歴といった背景因子を均一にして比較したデータはありませんでした。本研究では、日本とアメリカにおけるCKD患者の「前向きコホート研究」(共通の特性を持つ集団を追跡し、疾病と要因との関連を調べる研究)の対象者で心臓超音波検査を実施している4222名について、「心血管疾患」「死亡」「末期腎不全」に着目した最大5年間の追跡データを解析。アメリカのCKD患者は日本よりも心血管疾患を発症しやすく、心臓の収縮力低下と左室肥大がその差にかかわることを明らかにするとともに、左室肥大に肥満と炎症が関係することも見出しました。

CKD患者の治療に当たる深川教授は、日本における前向きコホート(CKD-JAC)の研究代表者も務めています。「CKD-JACは透析に至る前の患者を対象としていますが、今回は日米の研究者が共同し、アメリカにおける同様のコホート(CRIC)と比較してその違いを明らかにする機会が得られました。本研究により、アメリカのCKD患者は透析に至った患者と同じように心血管疾患の発症者が多く、生命予後が悪いことが明らかになりました。また、日本の患者に比べて肥満しており、血清中のリンの濃度が高く、心臓の左室肥大が進んで収縮力が低下していることもわかりました。これらの結果は、CDK患者に対しては肥満の抑制とともに、定期的な心エコー検査により早期に危険信号を察知して対処する重要性を示唆するものであり、今後の診療方針の決定にあたって非常に有用な情報になると考えられます。引き続き両国の比較研究を進めて新しい病態を解明し、診療の改善につなげていきたい」と話しています。

【共同研究者】
◇名古屋大学医学部附属病院先端医療開発部データセンター 今泉貴広特任助教
◇名古屋大学大学院医学系研究科腎臓内科学 丸山彰一教授
◇兵庫県立西宮病院腎臓内科 藤井直彦医師
◇名古屋市立大学腎臓内科 濱野高行教授
◇東海大学医学部医学科内科学系腎内分泌代謝内科学領域 深川雅史教授
◇アメリカ・ペンシルベニア大学臨床疫学生物統計学部門 Harold I. Feldman教授 他

※『Kidney International』に掲載された論文は下記URLからご覧いただけます。
https://doi.org/10.1016/j.kint.2023.01.008