産官学連携商品「阿蘇乃魂」

この記事は、2008年度に掲載しました。

産官学連携でゼロエミッションの芋焼酎作りに取り組む

おいしい芋焼酎を開発すると共に、原材料の生産から製品加工、廃棄物処理まで一貫した完全循環型システムを構築し、地域産業の振興につなげようという、一石“三鳥”を狙うプロジェクトが、産官学の連携を通じて着々と動いています。
このプロジェクトの名称は、「ムラサキマサリを用いた高度循環型醸造に関する産官学研究~醸造かすを出さないゼロエミッションプロジェクト」。メンバーは、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構の九州沖縄農業研究センター(以下、九農研)、焼酎メーカーの房の露株式会社(熊本県球磨郡)、有限会社木之内農園(熊本県阿蘇郡)そして東海大学の4者(08年1月現在)です。
九農研が開発したムラサキイモの新品種ムラサキマサリを用いて芋焼酎を製造し、その過程で発生する焼酎かすからさらにもろみ酢を醸造します。その醸造かすを飼料として家畜を育て、最後に家畜の排泄物を堆肥としてムラサキマサリを栽培するのです。
「一切の廃棄物を出さない、ゼロエミッションを目指したものです」と、プロジェクトの中核メンバーの一人、東海大学農学部バイオサイエンス学科の荒木朋洋教授は説明します。
そして08年春、芋焼酎は実験醸造を終えて「阿蘇乃魂」の銘で、木之内農園から試験販売が開始されました。

学術交流協定が連携の基盤に

「私たちの研究を応用し、展開するためには産学との連携が不可欠。このゼロエミッションプロジェクトの未来に期待しています」と語る、九州沖縄農業研究センターの吉元誠・機能性利用研究チーム長(左)と、皆川望・研究管理監(産官学連携担当)

プロジェクトの発端は、九農研がムラサキマサリを開発したこと(2000年に品種登録)。以前からムラサキイモは、健康によいといわれるポリフェノールを含む色素アントシアニンを多量に含むことから、機能性食品の材料として注目されており、ポテトチップスやアイスクリーム、羊羹(ようかん)などの菓子や酢、芋焼酎などの原材料として活用されていました。なかでもムラサキマサリはアントシアニンの含有量が高い、栽培しやすい、イモの形状が太く揃っているので加工性が高い、などの特色を持っています。このムラサキマサリの用途研究のパートナーとして、九州に数多い農業系大学・学部から選ばれたのが東海大学農学部でした。
九農研と東海大学は、04年4月に農業分野における包括的な学術研究交流に関する基本協定を締結し、学術交流を本格化しました。そして06年度から連携大学院を開設し、九農研の研究者が客員教授として九州東海大学農学研究科(当時)の教育・研究に参画しています。
そうした交流のなかから、「当時センター長を務められていた山川理先生が、開発間もないムラサキマサリをテーマにした共同研究を東海大学に提案したのです」と九農研の皆川望・研究管理監(産官学連携担当)は説明します。
「ムラサキマサリはアントシアニンに加えてデンプンも豊富で焼酎づくりに好適。焼酎かすからさらにもろみ酢を作ることができ、それにもたっぷりアントシアニンが含まれていて、機能性食品としてアピールできます。また、さらにそのかすを豚に与えても非常に“食い”が良く、飼料としても十分に期待できます」と、九農研の吉元誠・機能性利用研究チーム長は言います。
こうした特色を知るにつれて「単なる用途開発だけではもったいない、より多角的な活用ができるのでは、と考えるようになりました」と荒木教授は振り返ります。そして九農研と東海大学が会議を重ねるなかから生まれたのが、ムラサキマサリを始点とするゼロエミッションサイクルへの挑戦だったのです。

焼酎かす処理に一石を投じる

近年の焼酎ブームを追い風に、九州の焼酎メーカーは活況を呈していますが、一方で厳しい廃棄物問題に直面しています。従来、製造過程で発生する焼酎かすは海洋投棄されていましたが、法改正により07年春から全面禁止となり、現在、様々な処理方法やリサイクル方法が研究されているところです。蔵元の多くは経営規模が小さく、廃棄物処理は重いコスト負担になりかねません。しかしムラサキマサリならば、この問題解決の突破口を開けるかもしれないのです。
それにはまず、ムラサキマサリで焼酎を作ることから始まります。皆川研究管理監と荒木教授が連携して熊本県内の焼酎メーカーをあたり、房の露(株)の参加を取り付けることができました。また、社長が九州東海大学農学部の一期生という縁から、木之内農園がムラサキマサリの栽培・普及に協力することとなったのです。
こうして試験醸造の結果、上質の芋焼酎が出来上がりました。「クセがないのに豊かなコクと甘みがある。香りもいい。期待以上の出来ですね」と吉元チーム長は顔をほころばせます。まず08年春に720ミリリットル入りで5000本が試験的に出荷されますが、正規の酒販ルートに乗せるには量が少ないため、当面は木之内農園が販売を担当します。しかし前評判が高いため、関係者の注文だけで底をついてしまうのではないか、といういささか贅沢な不安をかかえているそうです。

2010年の本格販売を目指す

「東海大学の研究力とネットワーク力で、農業活性化に貢献したい」と語る、東海大学農学部の荒木朋洋教授

今後はムラサキマサリの栽培拡大と合わせて焼酎の醸造量を増やし、2010年をメドに本格販売を目指します。並行してもろみ酢の試験醸造や焼酎かすの飼料利用のための栄養試験などを重ね、ゼロエミッションサイクルに近づける計画です。
なお「阿蘇乃魂」は、このプロジェクトに関わる統一ブランドとして位置づけられており、焼酎銘のほかにもろみ酢や家畜飼料などに広く展開する予定です。
「おいしくて健康によく、しかも環境負荷が少ない、そんな新しい農産物ブランドを目指したいですね」と語る荒木教授。もちろん九農研の期待も高まっています。
「私たちの仕事は、市場性のある高品質、高付加価値の農作物を開発することで、農業経営を支援し、地域活性化につなげること。このプロジェクトを通じて熊本県はもとより九州の農業全体の活性化に貢献できれば嬉しいですね」と皆川研究管理監は言います。
今後、もろみ酢や家畜飼料の開発と事業化、さらには他の関連製品開発のためにも、より多くの企業・研究機関の参加を求めていきます。

販売に関するお問い合わせ

(有)木ノ内農園 TEL 0967-68-0552 FAX 0967-68-0275

房の露(株) TEL 0966-42-2008 FAX 0966-42-6000

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