農学部

産官学連携商品「阿蘇乃魂」

※この記事は、2019年度に掲載しました。

産官学連携でゼロエミッションの芋焼酎作りに取り組む

おいしい芋焼酎の開発を目指し、産官学連携のプロジェクトが始まりました。本プロジェクトは、原材料の生産から製品加工、廃棄物処理まで一貫した完全循環型システムを構築し、地域産業の振興につなげようという、一石“三鳥”を狙うものです。

本プロジェクトの名称は、「ムラサキマサリを用いた高度循環型醸造に関する産官学研究~醸造かすを出さないゼロエミッションプロジェクト」。メンバーは、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の九州沖縄農業研究センター(以下、九沖研)、焼酎メーカーの房の露株式会社(熊本県球磨郡)、有限会社木之内農園(熊本県阿蘇郡)そして東海大学の4者(19年1月現在)です。

九沖研が開発したムラサキイモの新品種ムラサキマサリを用いて芋焼酎を製造し、その過程で発生する焼酎かすからさらにデザートソースなどの食品を製造します。焼酎かすは他にも飼料化して家畜を育て、最後に家畜の排泄物を堆肥としてムラサキマサリを栽培します。

「一切の廃棄物を出さない、ゼロエミッションを目指したものです」と、プロジェクトの中核メンバーの一人、東海大学農学部バイオサイエンス学科の荒木朋洋教授は説明します。

醸造かすを出さないゼロエミッションプロジェクトのサイクル図

学術交流協定が連携の基盤に

プロジェクトの発端は、九沖研がムラサキマサリを開発したこと(2000年に品種登録)。以前からムラサキイモは、健康によいといわれるポリフェノールを含む色素アントシアニンを多量に含むことから、機能性食品の材料として注目されており、ポテトチップスやアイスクリーム、羊羹(ようかん)などの菓子や酢、芋焼酎などの原材料として活用されていました。なかでもムラサキマサリはアントシアニンの含有量が高い、栽培しやすい、イモの形状が太く揃っているので加工性が高い、などの特色を持っています。このムラサキマサリの用途研究のパートナーとして、九州に数多い農業系大学・学部から選ばれたのが東海大学農学部でした。

九沖研と東海大学は、04年4月に農業分野における包括的な学術研究交流に関する基本協定を締結し、学術交流を本格化しました。そして06年度から連携大学院を開設し、九沖研の研究者が客員教授として東海大学農学研究科の教育・研究に参画しています。

そうした交流のなかから、当時センター長を務められていた山川理先生が、開発間もないムラサキマサリをテーマにした共同研究を東海大学に提案されました。

「ムラサキマサリはアントシアニンに加えてデンプンも豊富で焼酎づくりに好適。また、焼酎かすを豚に与えても非常に“食い”が良く、飼料としても十分に期待できます」と、九沖研の吉元誠・機能性利用研究チーム長(当時)はプロジェクトの可能性を示しました。

こうした特色を知るにつれて「単なる用途開発だけではもったいない、より多角的な活用ができるのでは、と考えるようになりました」と荒木教授は振り返ります。そして九沖研と東海大学が会議を重ねるなかから生まれたのが、ムラサキマサリを始点とするゼロエミッションサイクルへの挑戦だったのです。

焼酎かす処理に一石を投じる

当時の焼酎ブームを追い風に、九州の焼酎メーカーは活況を呈していましたが、一方で厳しい廃棄物問題に直面しました。法改正により07年春から海洋投棄が全面禁止となり、当時さまざまな処理方法やリサイクル方法が研究されました。蔵元の多くは経営規模が小さく、廃棄物処理は重いコスト負担になりかねません。しかしムラサキマサリならば、この問題解決の突破口を開けるかもしれないと考えました。

それにはまず、ムラサキマサリで焼酎を作ることから始まります。皆川研究管理監(当時)と荒木教授が連携して熊本県内の焼酎メーカーをあたり、房の露(株)の参加を取り付けることができました。また、社長(当時)が九州東海大学農学部の一期生という縁から、木之内農園がムラサキマサリの栽培・普及に協力することとなりました。

こうして試験醸造の結果、上質の芋焼酎が出来上がり「クセがないのに豊かなコクと甘みがある。香りもいい。期待以上の出来ですね」と当時の吉元チーム長は顔をほころばせました。まず08年春に720ミリリットル入りで5000本が試験的に出荷され、現在は木之内農園をはじめスーパー等で販売しています。

2010年から本格的に販売

2010年から本格販売を始め、並行してゼロエミッションサイクルのプロジェクトを広く展開しています。

「阿蘇乃魂」を、本プロジェクトに関わる統一ブランドとして位置づけ、現在は焼酎銘のほかに焼酎かすを利用したデザートソースの製造・販売も行っています。

「おいしくて健康に良く、しかも環境負荷が少ない、そんな新しい農産物ブランドを目指したいですね」と語る荒木教授。もちろん九沖研の期待も高まっています。

「私たちの仕事は、市場性のある高品質、高付加価値の農作物を開発することで、農業経営を支援し、地域活性化につなげること。本プロジェクトを通じて熊本県はもとより九州の農業全体の活性化に貢献できれば嬉しいですね」と皆川研究管理監(当時)は言います。

芋焼酎とデザートソース

販売に関するお問い合わせ

(有)木之内農園 TEL 0967-68-0552 FAX 0967-68-0275

房の露(株) TEL 0966-42-2008 FAX 0966-42-6000