湘南キャンパスで3月14日に、「現代教養センター研究報告会」を開催しました。本センターに所属する教員の研究成果を広く学内に発信しようと実施しているものです。 当日は、現象学的心理学や身体性哲学が専門の田中彰吾教授が、「生きられた<私>をもとめて―身体・意識・他者―」をテーマに講演。多数の教職員が聴講しました。
田中教授は、独立行政法人日本学術振興会の科学研究費助成事業「基盤研究B」の採択を受け、「Embodied Human Science(身体性人間科学)の構想と展開」をテーマに研究に取り組んでいます。この研究は、身体性の観点から人間をとらえ直し、「自己」「他者理解」「心と認知」といった論点について新たな理論的展開を提示することを目的としています。2016年度には、本学で初めて同事業の「国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)」にも採択され、同年8月から1年間にわたり、ドイツ・ハイデルベルク大学精神社会医学センターで研究に従事しました。
はじめに田中教授は、国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)に申請した経緯を説明。「2013年10月から6カ月間、同大学のトーマス・フックス博士のもとで研究していた際に、世界各国から集まった多くの若手研究者らと議論する機会に恵まれました。その経験が励みとなり、同大学を拠点にさらに国際共同研究を進めたいと考えました」と語りました。また、今回の滞在期間中、フックス氏らとの共同研究はもちろん、自著『生きられた<私>をもとめて』(北大路書房から17年5月に刊行)や論文の執筆、翻訳、寄稿、ヨーロッパ各地で開催されたシンポジウムへの参加、専門ジャーナルの編集・発行などに没頭した日々を紹介し、「学会が成立する前段階にある学際的な領域で、各国の研究者と協力しながらシンポジウムやワークショップを開催し、議論を重ねることは、自身の研究の見識を高めるよい機会になりました」と振り返りました。
続いて、今回、ハイデルベルク大学で主に取り組んだ「離人症と体外離脱実験の比較研究」の概要を紹介。ヘッドマウント・ディスプレイに映った自分の映像を見て、自分が映像の中にいると錯覚する体外離脱実験の結果と、自己意識と身体が遊離しているように感じる疾患「離人症」の身体感覚の共通点と差異について説明し、「身体と分離しうる自己について考えるよりも、体外離脱を錯覚させる脳の柔軟性や可塑性について理解することが重要」と持論を展開しました。最後に、「一定期間、研究に専念できたことを大変ありがたく思っています。支援・協力してくださった教職員の皆さんに感謝します」と関係者への謝辞を述べ、「さまざまな言語圏の研究者との交流を通じて、日本の研究者が持っているアドバンテージが見えてきました。海外での研究は、視野を広げ、自分の研究のオリジナリティーに気づくきっかけになると思います」と海外で研究する意義を強調しました。講演終了後には、来場者から多くの質問や意見が寄せられ、活発な議論が交わされました。