文明研究所が東京大学や岡山県立大学、BIZEN中南米美術館(岡山県備前市)、本学のマイクロ・ナノ研究開発センターなどと協力し、南米で独自に栄えたアンデス文明の「楽器」を多角的に分析する学際型共同研究プロジェクトが、今年度からスタートしています。本学では、紀元前14世紀から紀元後16世紀に発展したさまざまな文化の遺物約2000点からなる国内有数規模の「アンデスコレクション」を所蔵しています。本研究所ではこれまで、「東海大学所蔵文化財活用のための基盤整備」プロジェクト(代表者=文化社会学部アジア学科・山花京子准教授)として資料の整理や写真撮影を進める一方、マイクロ・ナノ研究開発センターやイメージング研究センター、株式会社ニコンと連携し、X線CTなどの光学機器を活用して土器を撮影・分析する文理融合型の共同研究を展開。昨年度には、東京大学総合研究博物館助教の鶴見英成氏や岡山県立大学デザイン学部工芸工業デザイン学科准教授の真世土マウ氏らとともに研究会を開催「文化財を科学する」を開くなど、他大学の研究者とも連携を深めてきました。
今回のプロジェクトは、これまでの成果をもとに音の鳴る土器に焦点を当て、歴史学や考古学、物理学、工芸など多角的な視点から文字を持たなかったアンデスの人々の生活を掘り起こす、世界にも例のない試みです。8月23日には、東京都文京区にある東京大学総合研究博物館小石川分館で、実際に音の出る土器の鳴らしてその音色を収録。鶴見氏と山花准教授、マイクロ・ナノ研究開発センターの喜多理王教授(理学部物理学科)と研究室の学生・大学院生らが参加し、本学と東大、BIZEN中南米美術館が所蔵するさまざまな時代の土器と、X線CTで取得した3Dデータをもとに真世土氏が作成したレプリカ17点を選び、実際に空気と水を送った際に出る音色を採録しました。今後は録音データをもとに作成年代や地域、土器の形状による音の傾向を分析する一方、X線CTのデータをもとに土器の発する音をシミュレーションする分析用アルゴリズムの開発を進めていきます。
山花准教授と喜多教授は、「多角的な視点で資料を分析していくことで、新たに発見することも多い。総合大学である本学だからこそこうした文理の連携が可能。今後も互いの強みを生かし、アンデス文明の謎を少しずつ明らかにしていきたい」とコメント。喜多研究室の学生たちは、「さまざまな分野の専門家の方と接することで刺激を受け、貴重な経験を積むことができています。物理学の観点から、この研究の発展にできる限り貢献したい」「今回の録音に参加しただけでも、先人の技術力の高さや偉大さを感じました。音を聞きながら土器を使った人々の生活を想像するなかで、新たな思考や疑問がわいてくる面白さを実感しています。最近では、物理現象だけでなく、その歴史的な背景なども視野に入れて考察できるようになり、研究に携わる上での視野も広がってきたと感じています」と意欲を燃やしています。
また鶴見氏も、「アンデスの遺物は日本国内には数が少ないが、東海大に重要な資料価値のあるコレクションと充実した研究設備が整っていることで、国内の研究者が連携して国際共同研究に匹敵するような総合研究を展開できている。東海大の文明研究所とマイクロ・ナノ研究開発センターによる研究を学内外に発信してきてくれたからこその成果。古代文明の研究は、特定分野の専門家だけではわからないことも多く、このプロジェクトでは、大学や分野を超えて研究者が連携できていることで、さらに大きく発展していくと期待しています」と話しています。