工学部精密工学科の窪田紘明講師の研究室が取り組んでいる圧縮残留応力の付与に関する研究成果をまとめた論文がこのほど、日本鉄鋼協会が出版する国際誌『ISIJ International』に掲載されました。
さまざまな機械部品の耐久性を向上させるために、材料に強い力をかけて変形させ、内部に圧縮のストレスを残した状態である「圧縮残留応力」を付与する方法が用いられています。残留応力を適切に制御できるようになると、削って部品にする際の変形や、使用しているうちに表面に亀裂が入るといったさまざまな問題を防止することができます。これまで塑性変形(外力を取り除いても残る変形)と熱処理のどちらかを用いて残留応力を制御する研究が進められてきましたが、窪田講師と学生たちは、橋梁用のワイヤーやロープウェイのロープなどの製造に使われる「引き抜き加工」の技術に塑性変形と熱を組み合わせることで、材料内部のストレスを自在に制御する方法を模索。独自に開発した装置を使って、潤滑剤を塗った円柱状の材料を400℃で加熱し、水をかけて瞬間的に冷却した直後にダイスと呼ばれる丸い工具に通して引き抜くことでこれまで研究されてきた方法より約2.5倍も圧縮残留応力を加え、耐久性を大幅に向上させることを発見しました。これらの加工技術について昨年6月に特許を出願するとともに、この春卒業した秋元雄天さん(大学院工学研究科2020年度修了)と桜澤航さん(精密工学科20年度卒)、齋藤圭吾さん(同)による論文が『ISIJ International』に掲載。現在は岸建太郎さん(精密工学科4年次生)と松井春樹さん(同)が引き継いでこの研究を続けています。
加工実験を担当する岸さんは、国立研究所の協力を得て、X線による圧縮残留応力の解析にも励んでおり、「手作業が多いので、大量生産ができる方法として企業に提案するにはまだまだ改善すべき点が多々あります。潤滑剤と冷却水を合わせた液体潤滑材を使用するなど、より効率よく効果を得られる方法を見つけたい」と意気込みます。実験結果をもとに温度や加工強度と耐久性の関係を有限要素法を用いて解析する松井さんは、「うまく解析結果が出ず、エラーになってしまうことも多い。細かく条件を変え、正しい結果が出たときは本当にうれしい」とやりがいを語りました。窪田講師は、「失敗を繰り返しながらも努力を重ねて成功した経験は社会に出てから必ず役に立ちます。これからも学生が手を動かして自ら学べる環境をつくっていきたいと考えています」と話します。「本研究は産業界や鉄鋼業界の関係者からも高い注目を集めており手応えを感じています。この技術を実用化できるよう、学生たちとさらに研究を深めていきたい」と語りました。
▼特許出願番号
特願2020-109571(出願人:東海大学)
▼論文URL
https://doi.org/10.2355/isijinternational.ISIJINT-2021-230
▼窪田研究室
https://kubotaken.amebaownd.com/