医学部看護学科の金児-石野知子客員教授と東京医科歯科大学の石野史敏名誉教授らの研究グループが、ウイルス由来の哺乳類特異的獲得遺伝子「RTL9/SIRH10」が脳内におけるカビ(真菌)の感染防御に重要な機能を持つことを解明。その成果をまとめた論文が10月4日に、国際科学誌『International Journal of Molecular Sciences』オンライン版に掲載されました。
金児-石野客員教授らは、太古の昔に哺乳類の祖先のゲノムに入り込んだウイルス由来の11個の遺伝子(RTL/SIRH遺伝子群)の機能解明に取り組んでいます。これまでに、同群の遺伝子が胎盤の形成や脳の保護機能などに関係することを明らかにしており、2022年には、「RTL5/SIRH8」「RTL6/SIRH3」の2つの遺伝子が、ウイルスや細菌から身を守る自然免疫システムの一員として脳で働いていることを世界で初めて見出しました。本研究では、同群の遺伝子が、ウイルスや細菌と同様に哺乳類にとって脅威である真菌に対する感染防御にも寄与していると予測。マウスを使った実験により、Rtl9/Sirh10遺伝子によって作製されたタンパク質が脳内の免疫細胞「ミクログリア」で発現しており、このタンパク質によって研究用の真菌細胞壁の分解・消失が促進されることを解明しました。さらに、Rtl9/Sirh10遺伝子を破壊したマウスではこの反応が生じないことから、同タンパク質が真菌細胞壁の分解反応に必須の機能を持つことを確認しました。
金児-石野客員教授は、「RTL9/SIRH10遺伝子は哺乳類の脳に対する重要な保護機能を持っているため、進化の過程で淘汰されることなく保存されていると考えられます。真菌の脳への感染は重篤な疾患を引き起こすことが知られており、この発見は同遺伝子を標的とする新たな治療法の開発につながる成果として期待されます」と意義を説明します。「多くの研究者や生命科学統合支援センターの技術職員、大学院生らの協力により、研究を続けることができました。12年にわたり、信頼できる人柄と確かな技術で研究を支えてくれた臨時職員の高安直子さんにも心から感謝しています。これまで、哺乳類に特有のシステムであるゲノムインプリンティング(精子や卵子の形成過程で遺伝子に刷り込まれたしるしが子に引き継がれる機構)に関わる遺伝子の研究からウイルス由来の遺伝子の重要な役割を明らかにしてきましたが、まだ機能が分からないものが数多く残っています。今後はこれまでの成果やノウハウを生かし、iPS細胞などを使って“ヒトだけ”が持つウイルス由来遺伝子の探索や機能解明にも挑んでいきたい」と意欲を語っています。
※『International Journal of Molecular Sciences』に掲載された論文は下記URLからご覧いただけます。
https://www.mdpi.com/1422-0067/24/19/14884