医学科・椎名教授が開発した遺伝子型特定技術が再生・移植医療の進展に貢献しています

医学部医学科の椎名隆教授(基礎医学系分子生命科学)が開発した遺伝子型特定技術「MHCタイピング法」が、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を用いた再生医療や臓器移植医療の進展に貢献しています。

他人の細胞から作製されたiPS細胞や他人の臓器は、移植されると多くの場合、免疫反応により異物と認識されて拒絶反応が起こります。生着の拒絶を回避し、移植を成功させるためには、ドナー(提供者)とレシピエント(移植希望者)のMHC(主要組織適合性複合体:ヒトの場合はHLA)遺伝子の型を合わせることが重要とされています。椎名教授は、遺伝子の塩基配列を高速度で解析できる装置「次世代シーケンサー」を用いて、カニクイザルのMHC型を特定する技術「MHCタイピング法」を2012年に開発。より安全で効果的な再生・移植医療の実現を目指して研究を続けてきました。

13年には国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の医療分野研究成果展開事業の採択(5年間)を受け、株式会社イナリサーチの研究者らと連携して「再生医療・移植医療研究の鍵となる拒絶反応回避のためのMHC統御カニクイザルの有用性評価と計画生産の検討」をテーマとした研究に従事。約5000頭におよぶ個体のMHC型を特定して遺伝学的、免疫学的情報を収集・分析し、カニクイザルが移植モデルとして高い資質を有することなどを実証しました。また、移植による拒絶反応が起きにくいサルと起きやすいサルを選び、京都大学や大阪大学、理化学研究所などが進めるiPS細胞を用いた再生医療(神経細胞や心筋細胞、網膜細胞シートの移植)の実験に協力。さらに、慶應義塾大学医学部の木須伊織特任助教、滋賀医科大学の伊藤靖教授、株式会社イナリサーチの中川賢司代表取締役社長らとの共同研究で、世界で初めてカニクイザルの子宮移植と移植後の出産にも成功しました。この成果に関する論文は、11月18日に国際医学雑誌『Journal of Clinical Medicine』に掲載。子宮性不妊症の女性に希望をもたらすと期待されています。

椎名教授は、「MHC領域のゲノム多様性と移植予後との関連について積み重ねてきた研究の成果が臨床応用につながりつつあることを、光栄に思います。カニクイザルのMHCタイピング法の技術を持っているのは、世界でも本学を含む数施設しかありません。自分を信頼して研究用個体の選別をまかせてくれた共同研究者の皆さんに感謝しています。MHC領域はリウマチなどの自己免疫疾患や薬剤の副作用にも関連すると報告されており、現在はこうした病気や副作用の発症メカニズムの解明も進めています。今後も臨床に役立つ研究を進めていきたい」と話しています。