医学部付属病院循環器内科の吉岡教授らが世界初となる「炭素イオン線による難治性致死性心室不整脈治療」を実施しました

医学部付属病院副院長で循環器内科の吉岡公一郎教授(医学部医学科)と量子科学技術研究開発機構QST病院治療診断部の若月優部長らの研究グループが、2023年2月にQST病院で、世界初となる難治性致死性心室不整脈(心室頻拍)に対する炭素イオン線(重粒子線)を用いた体外放射線治療を実施しました。

心室頻拍などの致死性心室不整脈は、心臓突然死を招く極めて重篤な疾患です。日本では年間6~8万人が心臓突然死で亡くなっており、高齢化の進展に伴う増加が予想されています。心室頻拍の治療は、薬剤とカテーテルアブレーション、植込み型除細動器の3つが主体ですが、症状によってはいずれの治療も受けられない場合があります。

こうした中、主に腫瘍疾患に適用されている体外放射線治療が、心室頻拍に対する第4の選択肢として期待されています。近年の放射線治療技術の進歩により、体幹部定位放射線治療(SBRT)では標的組織に隣接する正常臓器への障害を最小限に抑えながら、標的に対する高線量の放射線照射が正確にできるようになりました。麻酔が不要で照射時間が極めて短いため、患者の負担が少ないのが特長です。

吉岡教授らは、2019 年に本学医学部付属病院で心室頻拍に対するX線を用いたSBRTを初めて実施し、優れた治療成績を報告していますが、X線は標的の周囲に影響を及ぼすため、冠動脈に近接している標的の治療は難しいことが課題でした。研究グループでは、放出エネルギーが調整でき、正常組織への影響を減らせる炭素イオン線に着目。本病院の放射線治療科、画像診断科の医師らと研究を重ねるとともに綿密な臨床実施計画を策定し、今回の体外放射線治療を実施しました。

吉岡教授は、「本症例では、治療時間は準備を含めて約1時間、照射時間は8分で治療中のトラブルはありません。治療後も急性心膜炎や心不全などの合併症はなく、患者さんは4日後に退院されました。その後も有害事象はありませんが、引き続き慎重に経過を観察中です。X線のリスクが高い症例に対して新たな治療オプションを追加できたことは、不整脈の放射線治療領域における大きな前進です。今後は、X線を用いたSBRTと炭素イオン線による放射線特性を利用し、患者さんの病態や心臓ターゲットに応じた使い分けを検討する予定です」と話しています。

【研究代表者】
​吉岡公一郎(東海大学医学部付属病院循環器内科 教授、量子科学技術研究開発機構 共同利用研究員)

【研究分担者】
​若月優(量子科学技術研究開発機構 量子生命・医学部門 QST病院 治療診断部 部長)
網野真理(東海大学医学部付属病院 循環器内科 准教授、量子科学技術研究開発機構 量子生命・医学部門 量子医科学研究所 重粒子線治療研究部 主幹研究員)
森慎一郎(量子科学技術研究開発機構 量子生命・医学部門 量子医科学研究所 物理工学部治療システム開発グループ グループリーダー)
下川卓志(量子科学技術研究開発機構 量子生命・医学部門 量子医科学研究所 物理工学部粒子線照射効果研究グループ グループリーダー)
森康晶(量子科学技術研究開発機構 量子生命・医学部門 QST病院 治療診断部治療課 医師)
石川仁(量子科学技術研究開発機構 量子生命・医学部門 QST病院 副病院長)
株木重人(東海大学医学部付属病院 放射線治療科 講師)
国枝悦夫(東海大学医学部付属病院 放射線治療科 客員教授、総合東京病院放射線治療センター長)
橋本順 (東海大学医学部付属病院 画像診断科 教授)
伊苅裕二(東海大学医学部付属病院 循環器内科 教授)
菅原章友(東海大学医学部付属病院 放射線治療科 教授)
栁下敦彦(東海大学医学部付属病院 循環器内科 准教授)
坂間晋(東海大学医学部付属病院 放射線治療科 講師)
福澤毅(東海大学医学部付属病院 放射線治療科 助教)
黒木俊寿(東海大学医学部付属病院 放射線治療科 助教)

【コーディネーター】
鈴木和子(量子科学技術研究開発機構QST病院 経営戦略部 臨床研究支援室 臨床研究コーディネーター)
露木匡子(量子科学技術研究開発機構QST病院 経営戦略部 臨床研究支援室 臨床研究コーディネーター)
藤原由希子(東海大学医学部付属病院 治験・臨床研究センター Ns CRC)