教育研究上の目的・人材像

教育方針と教育目標

教育目標

考古学は人類の過去の文化を取り扱います。ただし考古学でいう「文化」とは、人類が遺跡のなかに物的証拠として刻みつけ、あるいは廃棄した全てのものから再現され復元される過去の人間の活動全体を含みます。あるものは日常的な生活の痕跡かもしれませんし、またあるものは偶発的に起こった事件の痕跡かもしれません。とある個人が繰り返し行った行為の累積かもしれませんし、組織だった祭式などの集積かもしれません。それらを遠い過去から現在までの時間軸上に位置づけ、どこで起こった出来事なのかを探ります。こうしてある特定の空間のなかで生じた出来事を時間軸に沿って整理し、一定のまとまりが見えたとき、そのまとまりを考古学では「文化」と呼びます。

つまり人間の営みに関わる全ての物事を、遺跡に残された物的証拠を通じて的確に再現し、復元する方法を考古学専攻では学びます。特にフィールド調査に重点をおきながら、本専攻で学ぶ皆さんには次のことを実体験し、身につけていただきたいと考えます。人類史を深く学び、充実した社会生活を送るために必要不可欠な事柄だからです。

人間・自己の発見

第1は、人間という存在のすばらしさや不可思議さを発見し「人間」を好きになることです。現在の私たちの感覚ではとうてい信じられないような過酷な環境を生き抜いた人々がいました。無意味とさえ思われるような巨大な建造物の構築にエネルギーを注ぎ込んだ人々もいました。遺跡の発掘調査を通じて、こうした過去の人間の営みに接していただきたいのです。かならず驚きや発見があるはずです。そこから人間とはなにか、なぜそのように生きたのか、あるいはそのようにしか生きられなかったのか、と問いかけていただければ、考古学的思考の第一歩を踏み出せたことになります。

論理的思考を養う

第2は、論理的思考を訓練し養っていただくことです。遺跡も遺物も、過去の物的証拠は全て情報の断片です。個別の断片がどのような情報のどの部分の断片なのかを識別する必要がありますし、それら断片と断片とをつなぎ合わせなければ過去は再現されません。ちょうど警察の鑑識課が事件の再現をおこなうのと似ています。つまり考古学とは、断片化された情報の山のなかから、どれとどれとをつなぎ合わせればどのような過去が再現できるのかを注意深く見通し、筋道だって並べ替える思考の訓練の場でもあるのです。こうした作業の経験は、現代社会のあらゆる場面で要求される情報処理と論理的思考に役立つはずですし、取り扱う情報の断片は全て過去の人間の営みに関わることですから、身近な問題を考える際の訓練にもなると信じます。

忍耐力と社会性を育む

第3は、気力と体力、そして協調性・社会性の鍛錬です。発掘調査は土との格闘です。汗と泥にまみれ、体力と気力が勝負の世界です。それだけでなく、私たちは皆さんに共通の目標を達成させるために高度なチームワークを要求します。発掘調査には絶対不可欠な条件だからです。チームワークを維持するためには、相手を思いやる心と適切なコミュニケーションの維持が要求されることはいうまでもありません。肉体労働を伴う発掘調査、共同作業としておこなわれる整理作業や発掘調査報告書の作成、こうした経験を通して、特に忍耐力と気力、そして社会性を育んでもらいたいと考えます。

以上の3点が、皆さんが卒業するまでの間に素養として必ず身につけていただきたいことであり、私たちの掲げる教育目標です。これらは、実社会のいかなる場面においても必要不可欠な「力」であるからです。本専攻では考古学という手段を通じて、常に自省的で論理的思考を備え、かつ気力と忍耐力に支えられた人材を育成したいと考えます。

教育方針

考古学専攻の教育方針を以下の4項目にまとめます。

(1)専門基礎科目の必修化と基礎的教養の重視

歴史研究の一分野としてある考古学は、他の史学に比べると、関連する広い研究領域をもっており、これらの基礎的理解がまず必要となります。そのため「歴史基礎学」として、1年次には日本史、東洋史、西洋史の各概説類が、2年次には「歴史の見方」、「歴史総合講座」が開講されています。歴史に対する基礎的な知識と幅広い教養を身につけることが求められるからです。また考古学研究に直結した専門科目としては、「考古学研究入門」で基礎を学んだうえで、国内・国外の考古学研究の概要を学びます(日本考古学概説A・B、外国考古学概説A・B)。また関連学として人類学の修得が課せられます(人類学概説A・B)。さらには他学部、他学科で開設されている周辺あるいは関連学問諸領域の積極的学習も奨励します。すでに述べたように、考古学研究が他の様々な学問分野と密接に関連し合っていることからも、幅広い知識と教養を備え、旺盛な問題意識を身につけることが求められます。

(2)世界的視野での専門領域の学習と外国語学習の重視

考古資料は世界のあらゆる地域に存在します。これらを広く世界史的、あるいは人類史的観点から研究することも本学考古学専攻の特色の一つです。本学の考古学専攻では、「日本考古学」の他に、東アジア・北アジア・南アジア・西アジア・ヨーロッパなど国外諸地域の考古学についても広い視野からの学習が可能となるように「外国考古学」という学科目の下に各種の授業科目が開設されています。特にインダス地域やバルカン地域の考古学については、現地での調査を進めながら教育をおこなっています。これら各地の考古学を深く理解し、また外国の考古学者や学生とのコミュニケーションを通じて広い視野を開拓するためには、英語を柱とする複数の外国語を修得する必要があります。文学部で実施するTOEIC(R)を活用し、実際の発掘調査現場で語学力を試すなど、積極的な学習を奨励します。

(3)野外調査の実践と資料の分析法修得の重視

言うまでもなく考古学研究の基礎はフィールド調査にあります。遺跡に立つことから課題やテーマが生まれ、発掘調査をとおして解答が求められます。そのため考古学の研究では何よりも実地、実際における調査技術と資料分析法の修得が不可欠です。これらを訓練し、修得させる実習授業として「野外考古学演習」・「資料分析法演習」が開設されています。野外考古学演習では、学内および実際の遺跡において発掘調査や分布調査、測量調査等を実施し、その技術の修得に努めます。資料分析法演習では考古資料の観察と分析方法を学びます。「もの」をして「歴史」を語る眼を養っていただきます。このような実践的活動は単に技術的なことに留まらず、地域社会の中での考古学調査のあり方とその実際をも理解し、身につけることに結びつくのです。以上の演習授業の集大成として、サマーセッションあるいはウィンターセッション時に実際の遺跡において「考古学実習」を履修していただきます。

さらに考古学の研究では理化学的な知識や考古学への応用の実際を学んでいただく必要があります。それらを修得するため「応用考古学」が開設されています。「応用考古学」に属する講義・演習授業で取り扱われるテーマには、地質学・第四紀学・環境考古学・植物考古学・実験考古学等があります。

(4)「卒業論文」の重視と問題解決能力を持つ実践的な研究者の育成

全ての授業科目は4年次第8セメスターで作成・提出される「卒業論文」に向かって組み立てられています。考古学専攻ではとりわけ「卒業論文」を重視します。自らの力で問題を発見し、問題を解決するまたとない機会だからです。研究の現状を知り、問題の所在を確認すること(研究史の整理)、そしてどのような研究方法、分析方法が効果的であるかを考え(研究戦略の吟味)、関連資料・文献を集め(資料収集・文献収集)、分析し(資料操作・解釈)、一定の書式の中で論文として完成させるまでの一貫した流れを実体験していただきます。これは質において日常の授業等で課せられる「レポート」類とは異なる学問的な営みであり、大学での学修の最終目標と位置付けられるものです。「卒業論文」の作成を通して初めて、考古学を学ぶことの意味を再確認することになりますし、気力と忍耐力も培われると考えます。

考古学専攻が養成しようとする人材

本専攻で育てようとするのは、次の3項目を身につけた人材です。

  1. 1.過去の人間の営みに対する深い知識を基礎に人間を愛し、自己に対して常に自省的な人材
  2. 2.論理的な思考を鍛え上げた人材
  3. 3.忍耐力と社会性を備え、自己の責任を自覚する人材

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