医学部医学科基盤診療学系先端医療科学の柿崎正敏特任助教と幸谷愛教授らの研究グループが、B型肝炎ウイルス(HBV)の慢性化のメカニズムを解明。「HBV感染細胞から放出される細胞外小胞は、HBV感染マウスモデルにおいてHBV排除を抑制する」と題した論文が、8月28日に学術誌『Journal of Biological Chemistry』オンライン版に掲載されました。この研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の肝炎等克服緊急対策研究事業「B型肝炎に関する病態生理の新たな解明に基づく制御法開発(研究代表者:東京大学大学院医学研究科・大塚基之講師)」の採択を受けて進められているものです。
HBVは肝臓に感染して炎症(肝炎)を引き起こし、慢性化(持続感染)により肝硬変や肝がんを発症します。HBVの感染が慢性化すると、感染細胞を排除するための免疫応答に障害が生じることがわかっていますが、障害発生のメカニズムは解明されていません。研究グループは、がん細胞や免疫細胞などさまざまな細胞から放出されて全身の細胞に情報を伝達する細胞内小胞(EVs)に着目。ハイドロダイナミックインジェクション法(生体内に直接、短時間でDNAを導入する方法)でHBVに感染させたマウスモデルを用いた実験により、HBV感染細胞由来のEVsを投与すると、細胞内のHBVが排除されずに残存することを明らかにしました。また、ウイルスを攻撃して除去する役目を持つCD8+T細胞の働きを阻害する免疫チェックポイント因子PD-L1が、免疫機能をコントロールする樹状細胞の膜上に増加することも確認。さらに、HBV感染細胞由来のEVsが肝臓から骨髄に取り込まれ、EVsを取り込んだ骨髄細胞が腸管に集積しやすくなることも突き止めました。
幸谷教授は、「HBV感染細胞から放出されたEVsがHBVの排除を妨げ、B型肝炎を慢性化させるというHBVの持続感染のメカニズムの一端が明らかになりました。この成果は、B型肝炎の病態解明や慢性B型肝炎の新規治療法の開発につながるものと考えています」とコメント。柿崎特任助教は、「EVsを取り込んだ骨髄細胞が腸管に集積する原因や、集積した細胞が腸管に与える影響とそのメカニズムを分子レベルで解明するのが今後の課題です。現在はHBVの増殖を抑える薬しかありませんが、HBVを完全に排除できる薬や治療法の開発を目指して研究を続けたい」と意欲を見せています。
なお、『Journal of Biological Chemistry』に掲載された論文は下記URLからご覧いただけます。
https://www.jbc.org/content/295/35/12449