海洋学部の教育方針と教育目標

学部の意義

上に掲げた詩は、本学の創立者松前重義博士により海洋学部の開設の際に作られたものである。海洋学部は、1962年の学部開設以来、日本で唯一の海洋に関する総合学部として、一貫した教育研究活動をとおして、社会に対して有用な人材を輩出してきた。学部開設の背景および理念・目的は、戦前の日本が資源を求めて領土拡大を図り、あの悲惨な戦争へと突き進んでいった深い反省に立ち、資源・エネルギー問題や人口増加に伴う食料問題等、人類の抱える諸問題の解決を国境なき無限の海洋に求めるべきであるとの考えに基づくものであった。しかしながら、当時の日本においては、海洋の科学的研究と開発に対する体制が皆無に等しい状態であったことから、海洋に関する総合的教育研究機関の設立が必要不可欠であり、海洋の科学的研究教育を通して、海洋に関する諸問題の解決を図ると共に、問題解決能力を有する知識と技術を持った人材を育成することを目的に海洋学部が開設された。

その後、20世紀後半において地球と人類にとって最大の課題である、地球環境問題が顕在化してきた。地球表面積の約70%が海洋であることを考えれば、地球環境問題は海洋環境問題そのものであるといっても過言ではなく、この地球・海洋環境問題の解明と解決のために、海洋に関する総合的科学技術研究の推進と人材育成の必要性および重要性は急速に高まり、21世紀の今日ではさらにその傾向が強くなっている。

さらに、わが国においては「海洋の開発利用と海洋環境の保全と調和」「海洋に関する科学的知見の充実」「海洋の総合的管理」「海洋に関する国際的協調」など7項目を基本理念とする「海洋基本法」が2007年に施行され、国の基本政策として新たな「海洋立国」の実現に向けてスタートした。

上述のとおり、海洋を取り巻く環境はグローバル化し、今後さらに、海洋に関する科学技術や国際関係および政策などの諸問題が複雑に絡み合い多様化していくと考えられる。このような海洋に関する現状と将来予測に基づき、海洋学部は、海洋を通して人文社会学と理工学などの学問分野を有機的に結合した学際的視野に立った総合的教育研究機関として、これまで以上にその存在の必要性と重要性が高まっていくものと考える。

学部の理念と教育方針

海洋学部は開設以来、東海大学の建学精神に謳われている「調和のとれた文明社会の建設」に基づき、「海洋の総合的かつ平和的開発と利用による豊かな社会建設」を学部の理念として掲げてきた。学部開設当時の海洋に対する認識の根底には、海洋は広大であり、資源や環境に対する許容能力は無限であり、国境無き自由活動領域であるとする思想、つまり「自由・無限型海洋観」があったとみることができる。

しかしながら、20世紀を終え21世紀の現代、科学技術や産業技術の急速な発展、あるいは経済的利潤を優先する人間活動が、海洋の環境に甚大なる影響を及ぼしてきたことが指摘されるようになった。さらに、先進諸国による食糧・エネルギー資源の獲得競争の結果、海洋は紛争の海へと変貌してきている。ここに現代文明の抱える諸問題が存在する。それはまた自由無限型海洋観の転換を意味するものであるともいえる。

このような状況から、「海洋の総合的かつ平和的開発と利用による豊かな社会建設」を学部の理念として再度確認し、そのうえで、学部の理念を支える21世紀型海洋観を構築し、その新たな海洋観に基づいた海洋教育と人材育成の確立を目指すものである。

海洋学部が構築する21世紀型海洋観とは、自由・無限の海洋観に基づく活動から脱却し、国際社会の政治経済的問題、食糧・エネルギー資源問題、海洋を取り巻く自然環境問題等を包括した広義の「地球環境問題」を視野に入れた「調和・有限型海洋観」なるものである。すなわち、前述の広義の地球環境問題に対する人間・社会・自然の相互影響を理解し、調和と共生を保ち、海洋の持続可能的利用を図るという根本的思想である。

学部の教育目標

海洋学部の教育の基礎は、学部の理念に基づき、多様な分野にまたがる地球と人類の抱える諸問題に対し、海洋というフィールドを通して、その全体像を把握しそれら問題の相互関係を正しく理解することにある。そのために海洋に関わる人文社会学、理工学などの幅広い分野の基礎知識と技術を個別に教授するのではなく、各学問分野の関連性を重視した学際的かつ系統的教育を学部共通科目としている。この学部共通科目を教育課程の基盤として、各学科専攻において専門分野の教育をすすめる。

地球と人類の抱える諸問題に対して、海洋というフィールドを通したより深い理解を図り、さらに学際的知識と専門知識や技術を主体的かつ複眼的に活用して具体的な問題に対する対処、解決の方策を導き出せる、発想力および創造力を培うことを海洋学部の教育目標としている。

学部が養成しようとする人材

海洋学部では、前述の「調和・有限型海洋観」に基づく地球市民としてもつべき人生観、歴史観、世界観を伴った人材の育成を基盤とする。この新たなる海洋観は、海洋という狭い領域のみに適合されるものではない。すなわち調和思考とは、個別の専門性を複数修得することのみではなく、想起される問題に対してすでに修得した様々な専門要素を「組み合わせ」、新たな解決手法を創造する力に基づいている。また有限思考とは、諸事象の中に隠れる不可視あるいは未知な存在(地理的に遠くはなれた他国、未来の子孫達、生態系、地球)に与える影響を想像する力とそれらに対して自らの権利主張を抑制する責任感・倫理感に裏付けられている。

これらの調和と有限の思考によって養われる力は、激変し複雑化した今日の社会状況にあってあらゆる分野・職種に必要とされる力でもある。海洋学部は東海大学の建学の精神に基づき、新しい海洋観を有する人間形成を目指し、海を通して地球や自然の仕組みと、人間・社会・環境の相互影響を正しく理解し、高い倫理と責任感をもって調和のとれた持続可能な文明社会を実現するための幅広い知識と技術を総合的に活用する力を持った、人間性豊かな社会人、および職業人の育成を目標としている。

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